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『NOBELU -演-』第8巻 野島伸司(作)吉田譲(画) 【日刊マンガガイド】

2015/01/31


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『NOBELU -演-』第8巻
野島伸司(作)吉田譲(画) 小学館 \429+税
(2015年1月16日発売)


「子役とは“子”を“焼く”と書くんだ。親のエゴや見栄で押し込まれて、才能がなければ身も心も焼かれる地獄のような世界なんだ」

思わずゾクッとも、ニヤッともさせられてしまう、そんなセリフも本作の醍醐味。
過酷にして熾烈な子役の世界を描く『NOBELU -演-』が完結を迎えた。
作画は本作がデビューとなる吉田譲。そして原作は、数々の名作ドラマを手掛けてきた野島伸司。冒頭に引用したセリフはじめ、劇画的にして文学的な野島節とマンガの親和性を示した一作となったが、そのラストも氏のドラマ作品さながら、衝撃的にして神話的なラストにたどり着いている。

物語の舞台となるのは、大手子役タレント事務所のキララタレント事務所。ブロンズ、シルバー、ゴールドと、子どもたちの実力によって明確なクラス分けがされていて、事務所内にも階層が存在している。
そんなキララタレント事務所の門をくぐった、波田ノベル。ごくごく普通で、むしろ内向的な小学生だったノベルだが、両親の離婚で父親を失い、浪費壁のある情緒不安定な母親によって無理やり事務所に入れられてしまったのだ。

もちろん母親が求めているのは、スターになって大金を稼ぐこと。それに相反して、ノベルは性格的に向かないどころか、悪目立ちしてしまい、学校ではいじめ、家庭では虐待のマトに。
しかし、ゴールドクラスに所属する国民的人気子役・雫石ミコは、そんなノベルのある資質を見抜く。「君、カッてるね」と。
「カッて」いるというのは、心の中にもうひとりの自分を「飼って」いるという意味。その副人格が、ノベルに変化をもたらしていき……。

この別人格=DID(本作ならではの設定の解離性同一性障害)をめぐる物語も、サイコミステリー、ヒューマンミステリーとして読ませどころなっているが、大きくくくれば本作は子役業界の裏側を描いた、「子どもカースト」の物語だ。そのけれん味だけでも、グイグイ引き込まれる。
ただ、ラストの“映画編”で、物語はもっと大きなテーマへ向かっていく。いや、もともとそういう物語だったということに、あらためて気づかされることになる。

子役として頭角を現すノベルは、映画『15』の撮影に参加。しかし、ロケ地に向けた船が沈没して、無人島へ流されてしまう。そこに残されたのは、出演者の子どもたちのみ。
島の支配権を懸けて争いが起こるが、それが製作陣の大人たちの狙いで、その様子を密かにカメラがとらえていた!!
突拍子もない展開にも思えるが、そこで語られ、描かれるのは、ごくごくシンプルなことだ。生き延びていくということ、生きていくということ……。

過激な設定や演出の中だからこそ浮き上がる、シンプルにしてストレートなテーマ。
野島氏が監修を務めた2014年のドラマ『明日、ママがいない』とも相通じる作品だ。本作も子役というものを扱いながら、子どもがあるべき子ども像、または望まれて求められる子ども像、もしくは本当の自分を隠しての子ども像を演じて生きるということを描いている。

子役でなくても、すべての子どもは子役。そして演出家であるのは、母親。本作のそのラストも、母と子の神話として昇華していく。
いわば本作は、子どもの魂の救済の物語。芸能ものとしても楽しいが、あらためて読み直せば、また違う光が差し込むはずだ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。

単行本情報

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