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『働かないふたり』 第9巻 吉田覚 【日刊マンガガイド】

2016/12/02


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『働かないふたり』


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『働かないふたり』 第9巻
吉田覚 新潮社 ¥500+税
(2016年11月9日発売)


2階建ての一軒家に両親と住んでいる兄妹の日常を描く本作。
目つきが悪くいたずら好きだが面倒見のいい兄「守」と、引っ込み思案でいわゆるコミュ障だが優しい妹「春子」は、2人とも「働かない」。

働かざる者食うべからず、という慣用句が広く普及しているとおり、現代社会では成人しているのに働かない人は生きていてはいけないと考えられることが多い。
そんな風潮に異議を唱える、奇特な気概ある作品として本作を読むかどうかはさておき。
この兄妹の日常を覗き見することで救われているブラック気味な企業勤務のお隣さん「倉木さん」や、兄妹の生活を金銭的に支える2人の父親の存在は興味深い。

人を喜ばせるのは楽しいことだし、喜んだり楽しい気持ちになっている人を見るのは幸せだということ。本作を読んでいると、こんな当たり前のことをつい忘れがちになっている自分に気づかされる。
「いい大人が……」と思わずつぶやきながら、その倉木さん自身がくだらない遊びを楽しむ兄妹と、いっしょに遊んで楽しく幸せになってしまうし、兄妹にいつもいたずらをされる父親も多少の不安を抱えながらも2人を信じて幸せに暮らしている。
フィクションだからこそ描けるものを本作もまた描いているのかも知れない。

さて最新巻となる今回は、春子の高校時代の友人「ユキちゃん」のお父さんとお祖父さんが登場。
ユキちゃんのお父さん、なんと働いていない「第三のニート」。
公園でひとりでホウキにまたがり飛ぶ練習をしている完全な奇人。
守くんも将来、こんな感じになるのか……と思うと兄妹のご両親とは別の不安が頭をよぎる。

なんだかんだ登場キャラも増えてきて、連載開始当初の引きこもり的な閉塞感が薄らぎ、なぜか安心して読めるようになってきちゃってるのがまた逆に怖かったりもして。
大笑いしながら読んでるけど、これほんと社会派ホラーだと思う。



<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!』のアンケートにも回答しています。
Twitter:@nnnnnnnnnnn
Twitter:@n11books

単行本情報

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