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『このマンガがすごい!2015』オンナ編第1位記念インタビュー 阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』【前編】好きな表現をして生活できる漫画家ってテンション上がる

2014/12/22


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、阿部共実先生!

中学2年生のちーちゃんと友達のナツ。なにかちょっと「足りない」と感じる思春期の女の子たちの日常と心のなかを、コミカルかつ鋭く描いた衝撃作『ちーちゃんはちょっと足りない』。
同作が『このマンガがすごい!2015』オンナ編第1位に輝いたことを記念し、阿部共実先生にお話をうかがいました。

本誌『このマンガがすごい!2015』でも、阿部先生のインタビューはたっぷり掲載しています。でもでも、阿部先生の漫画家としての原点やデビューまでの道のりなど、気になる話題は、まだまだあります!
『このマンガがすごい!WEB』限定のディレクターズカット版として、本誌には載せきれなかったお話をお届けします!

インタビュー後編はコチラ

阿部共実

2009年、『COZ! 〜クロス オーバー ザン〜』で「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)の月例フレッシュまんが賞のフレッシュ賞を受賞、同年末、『恋する殺人鬼』で同誌の第73回新人まんが賞奨励賞を受賞。

2010年、第74回新人まんが賞に入選した『破壊症候群』が「週刊少年チャンピオン」に掲載され、漫画家デビューを果たす。その後、『空が灰色だから』『ブラックギャラクシー6』『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』など連載作を精力的に発表。

2013年に「もっと!」(秋田書店)で連載された『ちーちゃんはちょっと足りない』は、2014年に第18回文化メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞、さらに「このマンガがすごい!2015」のオンナ編で第1位に選ばれた。

現在「Championタップ!」にて、『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』の人気キャラ「アルティメット佐々木」の最新話を公開中。

12月25日(木)には、阿部共実先生の最新作も更新予定!

Twitter @ab_t

ブログ blog.livedoor.jp/ikaruga99999/

 

漫画家になろうと決意した 『AKIRA』との出会い

――子どもの頃はどんなマンガを愛読していましたか?

阿部 子どもの頃は普通に「週刊少年ジャンプ」(集英社)ですね。『ドラゴンボール』(鳥山明)と『幽☆遊☆白書』(冨樫義博)が好きでした。初めて買った単行本はたしか『とっても!ラッキーマン』(ガモウひろし)【注1】ですね。で、中学生の時、『AKIRA』(大友克洋)に衝撃受けて、みたいな。またベタで申し訳ないのですが。

阿部先生が漫画家になるきっかけになったという『AKIRA』。初めて同作を読んだ時の衝撃は、読んだ者ならだれもが忘れがたいものがあるだろう。

阿部先生が漫画家になるきっかけになったという『AKIRA』。初めて同作を読んだ時の衝撃は、読んだ者ならだれもが忘れがたいものがあるだろう。

――中学生としてはベタでもないんじゃないですか?

阿部 小学生の頃からノートにマンガ描いたりしてて、漠然と「漫画家になりたい」って思ってましたけど、『AKIRA』に出会って漫画家になる意思を固めたと思います。ちょうど中3くらいで進路も考えなきゃいけなかったので。

――ほかに、影響を受けたと思う作品はありますか?

阿部 同じ時期に読んで特に強く印象に残っているのは『多重人格探偵サイコ』(大塚英志・原作/田島昭宇・作画)[注2]の田島昭宇先生の絵やイラストと、『BLAME!』(弐瓶勉)[注3]ですね。今となっては自分のマンガからはどの作品の影響もそんなに濃く出せてない気もしますが、なんかこの3作品からスタートしたって気持ちになります。世界観や表現が突出した作品を見て、意識がいろいろ変ったんでしょうか。

『多重人格探偵サイコ』

『多重人格探偵サイコ』

『BLAME!』

『BLAME!』

――王道少年マンガ系から離れるのがけっこう早かったんですね。

阿部 そういうわけでもなく、「ジャンプ」の『NARUTO』や『BLEACH』、「週刊少年チャンピオン」の『バキ』とかも読んでました。青年誌を読むことも増えたのですが、この頃から単行本派にはなってましたね。一番マンガを読んでた時期だと思います。高校の頃は『ピンポン』(松本大洋)[注4]とか、「アフタヌーン」系、「IKKI」系も読んでいたかな。でもマンガ仲間ってのがいなかったし、まだネットとかをそんなに利用してなかったので、そこまで深くマンガにどっぷりってわけでもなかったですけど。

――漫画家以外になりたいものはありましたか?

阿部 なれる気はしないし音楽なんて全然やったことないですけど、作曲家には憧れます。久石譲[注5]とか、すごいなと思います。歌詞もストーリーもなく、音だけで聴く人に思い思いの世界を想像させるのってすごいなって思います。でも、すべてではないですがどんなジャンルの作品でも答えをもうけず、見る人や聞く人に想像してもらうことが大切というか。マンガでもそういう部分ってあると思います、個人的には。読者の方の経験で読みかたが変わる部分があるみたいな。その人の趣味や経験や過去から、イメージが生成されていくと思うんです。

――そうですね。ちなみに、最近はどんな音楽を聴いていますか?

阿部 『ちーちゃん』作業中は「たま」[注6]と「神聖かまってちゃん」[注7]をよく聴いてました。あんまりロックとかは聴かないので両者ともごく最近聴き始めたのですが、世界観が好きです。『空が灰色だから』の頃は「不可思議/wonderboy」[注8]とかを聴いてて直接的な影響を受けてたと思います。ほか、日本語ラップやポエトリーリーディングはちょろちょろ聴きます。

『空が灰色だから』にも影響を与えたという「不可思議/wonderboy」。阿部先生の独特のセリフまわしはたしかに詩的でありラップっぽくもあるかも。

『空が灰色だから』にも影響を与えたという「不可思議/wonderboy」。阿部先生の独特のセリフまわしはたしかに詩的でありラップっぽくもあるかも。


  • 注1 『とっても!ラッキーマン』 1993年から97年にかけて「週刊少年ジャンプ」にて連載されたガモウひろしによるヒーローギャグマンガ。運のよさだけが武器のヒーロー、ラッキーマンと彼の仲間たちが活躍する。1994年にはテレビ東京系列でアニメ化もされた。
  • 注2 『多重人格探偵サイコ』 1997年に「月刊少年エース」(角川書店)にて連載が開始したサイコスリラーマンガ。「コミックチャージ」「ヤングエース」と掲載誌を変え、現在も連載中。主人公はもと刑事で、恋人が猟奇的な殺されかたをしたことから多重人格となり、探偵として続発する猟奇殺人事件の謎と自らについての謎を追う、というストーリー。リアルな死体やショッキングなシーンは多くの読者に衝撃を与えた。
  • 注3 『BLAME!』 1997年から2003年まで「月刊アフタヌーン」(講談社)にて連載された弐瓶勉のSFアクションマンガ。
  • 注4 『ピンポン』 1996年から97年まで「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載された松本大洋による卓球マンガ。高校卓球部に所属するペコとスマイルというあだ名の幼なじみ2人が主人公。インターハイでのライバルたちとの激闘を通して成長する彼らの姿を感動的に描く。2002年には宮藤官九郎の脚本で実写映画化もされた。
  • 注5 久石譲 日本を代表する作曲家、編曲家、指揮者、ピアニスト。特に宮崎駿監督作品における映画音楽で名高く、『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』まですべての長編アニメーション作品の音楽を手がけている。また、北野武作品の音楽を手がけたことでも有名。
  • 注6 たま 1984年に結成され2003年に解散したバンド。ユニークなルックスと独創的で不思議な世界観は異彩を放ち多くのファンを獲得した。1990年にシングル「さよなら人類」でメジャーデビュー、58万枚を超える売り上げを記録するなど大ヒットした。
  • 注7 神聖かまってちゃん 2008年に結成された4人組のロックバンド。YouTubeやニコニコ動画への自作PVの投稿、ニコニコ生放送やTwitCastingでの定期的な配信をしながら活動している。
  • 注8 不可思議/wonderboy ポエトリーラッパー。2011年には詩人・谷川俊太郎と共演し、「生きる」を音源化。同年、1stAlbum「ラブリー・ラビリンス」を全国発売したが、それから約1カ月後、不慮の事故により24歳の若さで急逝。

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