厚生労働省に勤務する新米公務員・伏木あかり(のっぽで太眉)。
あかりが配属されたのは、不老不死の存在「オキナガ」を管理する部署だった。不死であるはずのオキナガが惨殺されるという事件に遭遇したあかりは、見た目は少年ながら実年齢は88歳(!)のオキナガ・雪村魁とタッグを組むことになる――
デビュー以来、第一線で活躍を続ける大ベテラン・ゆうきまさみ先生のほぼ10年ぶりの新連載となる『白暮のクロニクル』。ゆうき先生が新境地として挑んだミステリーマンガは、殺人事件はもちろん、吸血鬼に公務員にほろ苦ラブストーリーにとてんこ盛り! 4月30日には、最新巻となる5巻も刊行予定で、ますます目が離せない『白暮のクロニクル』について、ゆうき先生を直撃!!
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』インタビュー【中編】 ラストはもう決まってる!? ゆうき流マンガ創作術に迫る!!
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ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』インタビュー【後編】 気づいたら『白クロ』にもBLテイストが……。超話題作『でぃす×こみ』制作秘話!
あの設定は連載開始直前で決まった!? 『白暮のクロニクル』のはじまり
――『白暮のクロニクル』の連載開始までの経緯は、単行本第1集のあとがきに描かれていますが、もう少しそのへんの事情をおうかがいします。最初に探偵ものを思いついたのはどうしてですか?
ゆうき それは探偵ものをやってみたいという想いがあったからですね。
――今までやったことがないジャンルだから?
ゆうき あっ、そうですね。ただねぇ、現代劇にするにしても、1カ所だけ現実社会と違う点を入れる……いわゆる「1点ズラし」の部分がないと、ちょっと描く気が起きないなぁ、って思ってたんです。
――その「1点ズラし」の部分として「オキナガ」という吸血鬼のような存在が出てきますが、当初は自縛霊探偵とか死刑囚探偵というアイデアであったそうですね。
ゆうき でもねぇ、自縛霊探偵とか死刑囚探偵だと、「アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)」という分類になるんですけど、それだと連載マンガはもたないかなぁ、と。吸血鬼とか言い出したのは、たしか初夏の頃ですよ。
――連載開始は2013年の9月からなので、かなり直前じゃないですか! どうしてそこで吸血鬼が出てきたんですか?
ゆうき えーっとねぇ、それがよくわからないんだけれども(笑)。ただ、吸血鬼にしておくと、いざという時にアクションができるんじゃないかと思ったんですよ。
――あ、バーディー[注1]みたいに?
ゆうき そうそう。今回はアクションシーンは少ないけれど、強靱な身体ということにしておけば無茶ができる……ということで、吸血鬼のアイデアを出したんだと思います。
――アクションシーンはやっぱり描きたくなります?
ゆうき なるけど……、このマンガ(『白暮のクロニクル』)でムリヤリやろうとは思わないんですねぇ。
――直前に吸血鬼ネタが思いついたということは、連載までの準備期間は短かったんですね。
ゆうき 伏木あかりも、最初は警察官にしようと思ったの。そのほうが、なにか事件が起きた時に、あかりが雪村に相談に行くという流れがスムーズにできるだろうな、って思ってたんですけど、いざネームを描き始めたら、インスピレーションで、なぁんか厚生労働省になっちゃったんですよ(笑)
――またずいぶん変わりましたね(笑)
ゆうき 警察にしちゃうとねぇ、ちょっと変わった探偵と刑事のコンビって、今までにあったパターンじゃないですか。
――たしかに。
ゆうき そこをちょっとひねってみようかな、と。
――その「ひねった」先が、戦前は内務省衛生局で、戦後は厚生労働省(旧・厚生省)になったわけですが。
ゆうき たとえば登場人物が何かの情報を得ようとする時に、役所(国家公務員)であれば、どうにか手を回して情報をもらえないこともないんじゃないかなぁ……っという感じで、お話もそれほど滞ることがないんじゃないかと思ったんです。それで役所にしたんですね。で、実際に吸血鬼のような存在が世のなかにいるとしたら、どの役所の管轄になるんだろうなぁ、どういうふうに扱うんだろうなぁ、と考えていったんですよ。
――なるほど、それが1点ズラし(オキナガのいる社会)のもとになっているんですね。『鉄腕バーディー』シリーズでは、地球人は地球外生命を認識にしていない状態から、徐々に宇宙人がいる社会へと移行していきましたが、『白暮のクロニクル』では最初からオキナガのいる社会が描かれます。特に気をつけている点などはありますか?
ゆうき う~ん、そんなに意識的に心がけているわけじゃないんだけど、まったく人間社会に溶けこんでいるとしても、絶対にどこかで無理がくると思うんですよね。「アイツ気持ち悪い」とか言われちゃうんだろうなー、でも人里離れたところに固まって住んでいるのも変だしなー。だからまぁ結局のところ、「アイツらは人の血を吸うんだぜ」と都市伝説で言われていたり、「気持ち悪いねー」って普通の人々が思っているような社会を描く……ということを心がけています。そういう風潮がどこかに流れている社会。今の社会には、そういうのありませんからね。オキナガいないし。
――出てくるオキナガが、生活保護の受給者のような扱いなのが印象的です。
ゆうき やっぱり年を取らないから、職場で気持ち悪がられるし、辞めさせられたりする。そうなると、社会的に成功しているオキナガも少ないだろうし、そういうことになってるんじゃないかと思いますよ。
――これは『白暮のクロニクル』に限った話ではなく、ゆうき先生の作品全体にいえることなんですが、役所とか組織がすごく「それっぽく」描かれているんですよね。
ゆうき それはあれですよ、今まで読んできた小説や見てきた映画など、いろいろなものの断片が頭のなかにあって、そういうのを無意識に組み合わせているんですよ。あと、ぼくは6年ばかりですけど、会社勤めをやったことがあって、その時に上司とか同僚とかを見てますからね。「会社の人間って、どういうふうに動くのかなぁ」とか、多少は知ってます。それは多分、会社でも役所でもさほど変わらないんじゃないのかなぁ。
- 注1 バーディー ゆうきまさみの『鉄腕バーディー』シリーズに登場する主人公。地球人をはるかに上回る身体能力を持つ、アルタ人の連邦捜査官。『バーディー』シリーズは、1985年に「週刊少年サンデー」(小学館)で連載された『鉄腕バーディー』(オリジナル版)、2003~2008年に「週刊ヤングサンデー」で連載された『鉄腕バーディー』(オリジナルのリメイク版)、2008~2012年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載された『鉄腕バーディーEVOLUTION』(リメイク版の続編。「ヤングサンデー」休刊による「ビッグコミックスピリッツ」移籍を機に改題)がある。※外伝的な読み切り作品を除く。