ついに最新刊も発売された『白暮のクロニクル』。インタビュー中編では、そんな『白暮のクロニクル』について、ゆうき先生から衝撃的な発言も飛び出した! デビューから30年以上、第一線を走り続けるゆうきまさみ先生。
幅広い世代から愛されるゆうき作品はどのように生まれるのか?
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』インタビュー【前編】 画業30年を越えて初挑戦のミステリーは、計算しないで描いている!?
後編はコチラ!
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』インタビュー【後編】 気づいたら『白クロ』にもBLテイストが……。超話題作『でぃす×こみ』制作秘話!
ラストははじめから決まってる? ゆうき流、作品の作りかた
――キャラクターや設定とストーリー、どれから考えるんですか?
ゆうき ぼくの場合はほぼ同時です。だいたいの場合、キャラクターとお話は同時に思いつきます。
――不可分?
ゆうき うん。まぁ、そうなのかな。
――お話は、かなり先までもう決まっています?
ゆうき ラストシーンは決まっていますよ。
――え! そうなんですか?
ゆうき ぼくね、ラストシーンは最初の頃に思いつくんですよ。『鉄腕バーディーEVOLUTION』にしても、エピローグのラストのセリフはね、あれ描き始めた時に決めていたの(笑)
――へええ、そうなんですかぁ!
ゆうき まあ、最初の『究極超人あ~る』[注1]は、さすがに連載を描きながら考えていきましたけど、『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』[注2]の時も何年後かの日本ダービーで終わろうと、最初から決めていた。
――それは、「こういう終わらせかたをしよう」という設定ではなく、もっと具体的に「こういうラストシーンを描こう」と明確な絵が浮かんでいるわけですか?
ゆうき そうですね。『機動警察パトレイバー』[注3]は、最初から「1号機起こせ――!!」「チュイイイン」で終わらせるつもりでしたから。
――週刊連載でラストが決まっているって、すごいですね。
ゆうき そうなのかな? でも、そこに向かって描いていく方向みたいなものが定まっていないと、やっていけないんですよ。それでね、ラストシーンが思い浮かばないまま描き始めたのが『パンゲアの娘 KUNIE』[注4]。
――ははあ。
ゆうき 『KUNIE』の時は、明確なラストというよりは、もうちょっと漠然としたかたちしかなかったんですね。それでちょっと迷走しちゃった。
――『白暮のクロニクル』のラストシーンは、まだ描いてはないですよね?
ゆうき 描いてはないですよ。いや、もちろん変えざるをえなくなれば変えます。幸いうまくいった作品は、変えずにすんでいるんですけどね。でもねぇ、ラストは変わらなくても、途中経過はかなり変わっちゃうんですよ。
――というと?
ゆうき 『パトレイバー』を一例にしますとね、廃棄物13号の話を描く前は「怪獣ものをやるんだし、自衛隊による追撃戦があったらカッコいいよなぁ」とか「よし、葛西臨海公園を火の海にしよう!」とか思うわけ(笑)。で、ちょっとしたイメージを絵に描くんですよ。あとは、そこに向かって進めていけばいいかな、と思うんだけど、キャラクターがそんな方向には絶対にさせてくれないんですよ。
――キャラクターが!
ゆうき 司々[注5]がそんなことは絶対にさせないという決意で行動してますからね。
――キャラクターたちが、火の海にしないように動く。
ゆうき ええ、ええ(笑)。それで新木場封じ込め作戦が採用されたんです。
――そういうこともありうるんですね。
ゆうき ありうるというか、だいたいのエピソードがそんな感じです。「ここに行くだろう」と考えた場所に行ったことがない。とにかく目を引くような派手な展開にしようとすると、キャラクターがやらしてくれない。
――先生の描くキャラクターだと、そうなっちゃうんですかね?
ゆうき なんかそうなっちゃう。それでね、なにか事件を起こさせようとすると、大ポカがないとダメだろうな、って思うんですよ。でもね、現実では信じられないような大ポカは起きるんだけど、それをマンガで描くと「ウソでー!」みたいになっちゃう。
――ああ、ご都合主義に思われちゃう。
ゆうき ええ。だからマンガとかフィクションって、悪役を用意するんだと思います。悪役とかトラブルメーカーを。見てると殴りたくなるようなヤツをね(笑)
――ゆうき先生の作品だと、完全な悪役って少ないですよね?
ゆうき 『パトレイバー』の内海くらいですかね。あれは自分のことがかわいいだけですから。『白暮のクロニクル』に関しては、「羊殺し」というのを設定しているんですけども、あれは年がら年中事件を起こしているわけじゃないんです。
――12年に1回だけ。
ゆうき 話を駆動していくには弱い。なので、今は市井で起きる事件を扱っていますけど、まあ、いずれ大きな対決はあると思いますよ。
- 注1 『究極超人あ~る』 1985~87年に「週刊少年サンデー」に連載された、ゆうきまさみの作品。アンドロイドのR・田中一郎が所属する光画部(一般的には写真部)の部員やOBによるドタバタ学園コメディ。『鉄腕バーディー』(オリジナル版)の連載終了後に開始された。ちなみに、登場人物のひとりである「鳥坂先輩」のモデルとなった人物は、「いまウチでマネージャーのようなことをやってくれてます」(ゆうき)とのこと。
- 注2 『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』 1994~2000年に「週刊少年サンデー」(小学館)に連載された、競馬を題材とするゆうきまさみの作品。都内の有名私立高校に通う主人公・久世駿平は、北海道にツーリングに行った際の出来事をきっかけに、サラブレッドの生産牧場である度会牧場で働くことになる。
- 注3 『機動警察パトレイバー』 1988~94年に「週刊少年サンデー」(小学館)に連載された、ゆうきまさみの近未来SF。1998年(連載時では近未来)の東京を舞台に、警視庁は特殊二課を設立し、パトロール用のレイバー(多足歩行型作業機械)「パトレイバー」を配備。特車二課に配属された主人公・泉野明はパトレイバーを駆り、レイバーを用いた犯罪を取り締まる。
- 注4 『パンゲアの娘 KUNIE』 2001~02年に「週刊少年サンデー」(小学館)に連載された、ゆうきまさみの現代ファンタジー。日本の小学生・日向陽のもとに、ある日突然、南国のカラバオから少女・クニエが嫁いでくる。クニエが持ってきた卵からは、首長竜が孵化するのであった。
- 注5 司々 つかさつかさ。官々とも。役所の各官庁や各省庁のこと。各部署がそれぞれの職務を遂行することを、「司々で対応する」「司々で進める」といった言いかたをする。