ゆうきまさみが注目する 最近のマンガ作品
――最近はどんなマンガを読んでますか?
ゆうき 最近あんまり読んでないんだよぉ。
――先生のツイッターを拝見すると、けっこうチェックされているようですが。
ゆうき ああ、ここしばらくはね、読むようにしてるんですよ。やっぱりそのぉ、「今どうなっとるのよ?」みたいなことが、全然わからないっていうのもナニかなぁ、と。だからほら、『僕だけがいない街』[注6]とか、めちゃくちゃ評判になっているじゃないですか。それにミステリーだって聞いたから、「これは読まないといかん」と思って単行本は買っていたんだけど、読むのが怖くって……。
――それはあれですか、よすぎたらヘコんじゃう……みたいな?
ゆうき そういうのありますよ。で、こないだ大阪でサイン会をやった時に、新幹線のなかで読もうと思って1~2巻だけ持っていったの。行きの新幹線のなかで読んでいたら「やべぇ!」ってなって、その場でe-booksで続きを買っちゃった。それで「続きはまだ出てないんだよな、どうしよーーっ!」って(笑)。やっぱり止まらなくなりますねぇ、あれはすごい。ああいうミステリーもアリなんだぁ、って。
――三部先生にインタビューした時にネタ帳を見せてもらいましたけど、ものすごくたくさんのストーリー分岐を考えてらっしゃるようでしたよ。
ゆうき あれはたいへんだと思いますよ。行ったり来たりが。すごいなぁ、ネタ帳作るんだぁ。
――え? 先生は作らないんですか?
ゆうき 打ち合わせの前にノート2ページくらい書いて、それで担当さんと「どうしようかねぇ今回」って泥縄式に考えていくんです。「これは今回やっておかないとマズイですよ」とか言われながら。
――担当さんが苦笑いしてますが(笑)
ゆうき もうちょっとマジメにやんなきゃいけないかなぁ、とは思うんだけど(笑)。あとね、今、「月刊!スピリッツ」(小学館)いいですよ。『重版出来!』[注7]や『阿・吽』[注8]はおもしろい。それから『辺獄のシュヴェスタ』[注9]! 『辺獄のシュヴェスタ』はすごい!!
――連載が始まったばかりの作品ですから、要チェックですね。ちなみに、ミステリーは意識してお読みなんですか?
ゆうき いやぁ、昔から好きだから読んでいるけど、『白暮のクロニクル』にあわせて、あえて読んでいるわけではないですよ。クイーン[注10]の初期の「国名シリーズ」は大好きです。特に前期の『ギリシア棺の謎』までは大好き。後期になると、ちょっと苦しいなぁという感じはあるんですけど、でも『ギリシア棺の謎』は大好きなんです。あとはまぁ、ひさしぶりにカー[注11]にハマってる。
――え、今ですか?
ゆうき うん、今(笑)。新訳版がちょこちょこ出てきているから、読み直したものもあるんです。『帽子収集狂事件』なんかは、何十年ぶりかに読み直しましたよ。やっぱりね、昔のミステリーはムードがいいんですよ、洋邦を問わず。
――ちなみに『白暮のクロニクル』には、「協力」として柳下毅一郎さん[注12]の名前がクレジットされているじゃないですか。柳下さんにはどのようなことをお願いしたんですか?
ゆうき 按察使文庫(あぜちぶんこ)の蔵書について知恵を貸していただきました。凛子が魁を刺した時に、汚れちゃった稀覯本があるじゃないですか。あれは柳下さんに教えてもらった本なんですよ。ほら、ここ。
――あ、津山事件[注13]の本なんですね。
ゆうき そうそう。なんかね、この捜査資料はアメリカにしかないんだって。
――なんででしょうね? 津山事件って戦前でしたっけ?
ゆうき そうです。ほら、徴兵検査で引っかかったのがあるから。
――あ、そうか。じゃあ戦後にGHQが押収した資料なのかもしれないですね。
- 注6 『僕だけがいない街』 三部けいによるクライム・サスペンス。「再上映(リバイバル)」の能力によって現在と過去が交錯する異色のミステリー。「このマンガがすごい! 2014」オトコ編15位、「このマンガがすごい! 2015」オトコ編9位。三部先生のインタビューは以下のとおり。前編、中編、後編
- 注7 『重版出来!』 松田奈緒子による、マンガ出版業界を題材にした作品。編集者、営業、宣伝、製版、印刷など、マンガの制作と流通に関わる人々のドラマが描かれる。「このマンガがすごい! 2014」オトコ編4位。
- 注8 『阿・吽』 おかざき真理による、最澄と空海の宿命の対決物語。平安時代を舞台に、2人の天才の生き様が描かれる。現在、コミックスは第1集が発売中。
- 注9 『辺獄のシュヴェスタ』 ヨーロッパ中世の偽札づくりを題材とした「地の底の天上」で、スピリッツ賞大賞を受賞した新人・竹良実による初の長編作。16世紀の神聖ローマ帝国、「魔女狩り」の横行した時代に、少女エラは拷問具「鋼鉄の処女」とともに数奇な運命を送ることになる。「月刊!スピリッツ」2015年2月号から連載開始。
- 注10 クイーン エラリー・クイーンのこと。アメリカの推理小説作家。『ローマ帽子の謎』『フランス白粉の謎』『オランダ靴の謎』『ギリシア棺の謎』など、国名を冠した初期の長編群は「国名シリーズ」と呼ばれる。
- 注11 カー ジョン・ディクスン・カーのこと。アメリカの推理小説作家。密室トリックに長けている。『帽子収集狂事件』の新訳版は2011年に創元推理文庫から刊行された。
- 注12 柳下毅一郎 作家、翻訳家、映画評論家。町山智浩(ウェイン町山)との「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」ではガース柳下名義を用いる。シリアルキラーやスラッシャー映画に関する著書も多く、殺人マニアを自称する(『殺人マニア宣言』という著書もある)。
- 注13 津山事件 1938(昭和13)年に岡山で起きた大量殺人事件。俗に「津山三十人殺し」の名で知られている。犯人の都井睦雄は結核により徴兵検査で丙種合格(事実上の不合格)となり集落で孤立。それを契機に大量殺人の凶行に及んだ、とされる。
©ゆうきまさみ/小学館