ゆうき作品独特の感情と時間の連続性
――ゆうき作品に共通した雰囲気というか、妙にトボけた感じがあります。この「ゆうきテイスト」って、どこから生まれるんでしょうか? 当人に聞くのもなんですが。
ゆうき それはねぇ、誰にでも聞かれるんだ(笑)
――ああ、やっぱりみなさんお聞きになるのですね(笑)。あれは意図的な演出なのでしょうか?
ゆうき あのー、意図的な部分でいうと、たとえばですね、あるお話が延々と続いちゃってて、そろそろ場面転換がいるなぁ、って時には、オトすコマで終わるとか。
――久保園さんがリンスを忘れてきたところとか?
ゆうき そうですそうです。読者にクスッとしてもらおう、みたいな。そういうことは意識してます。
――ただ、みなさんおっしゃる「ゆうきテイスト」って、そういったコメディ・リリーフ的な部分とは違うと思うんですよ。もっと作品全体に通じているような感じ。
ゆうき それは……ぼくがのんきな性格だからじゃないかなぁ(笑)
――のんきなんですか?
ゆうき いやもうねぇ、担当編集者はキリキリキリキリしてると思いますよ。「なんでこの人はこんなに仕事をしないんだ!」って。
――そうなんですか?
担当 あ、はぁ。いえ、あの……(笑)
――そうなんですね?(笑)
担当 ひ、人柄だと思います。先生のお人柄が出ていると思います。
ゆうき あのー、ヤル気はね、わりと、いつも、ないんですよ。
――なに言ってるんですか、週刊連載をずーっとされているわけですから、充分働き者ですよ(笑)
ゆうき それはね、優秀なアシスタントのおかげです。
――アシスタントさんは現在、何人くらい?
ゆうき 4人。もう何年も一緒にやっているから、細かく説明しなくても、どんどん作業を進めてくれるんですよね。
――マンガを描く過程で、どこにいちばん苦労されます?
ゆうき ネームかなぁ。ネームに3日はほしいところですね。ぼくね、ネームに絵を描きこまないと、できないんですよ。
――ネームはコマ割とセリフだけ、って人もいますよね。
ゆうき ぼくの場合はセリフと絵が同時に定着していないと、原稿に入った時にものすごい苦労しちゃうんです。昔、新谷かおる先生[注14]にネームを見てもらった時に、「アンタこのまま印刷して、同人誌で出せばいいじゃない」って言われたくらいですから(笑)。その頃に比べたら全然描きこまなくなりましたけど、でもね、本当は描きたいんです。
――ゆうき先生の担当編集になってから、初めてネームを見てどう思いました?
担当 すごく描きこむなぁ、と思いました。切羽つまっている時は、あまり描きこまないんですけど、でもそういう時は下絵で苦労されているみたいですね。
ゆうき ネームでかなり決めこんじゃうんですよ。彫刻を彫るようにネームを描くというか、ネーム段階で刻みこんでいく。
――どういうことですか?
ゆうき 本当は、○ページ目までこの要素を入れて、ここには決めゼリフが入って……というのを決めておいて、そのあいだを埋めるように進めていきたいんだけど、そういうネーム作りができないんです。
――アタマから順番どおりに進めていく。
ゆうき そうしないとね、キャラクターの感情がわからなくなっちゃうんですよ。あるセリフを入れたことによって、キャラクターにそれまでとは違う感情が湧き起こることがある。そうすると、当初に考えていたお話とは違う方向に進んじゃうこともある。だからね、刻んでいかないとダメなんです。ネームの途中でキャラクターの感情が変化して、違う方向に進んじゃったら、担当さんに「ネームが止まっちまった!」って言うんですよ。そうすると「どうして止まったんですか!」「どうして進まないんですか!」と言われちゃう。どうしてって言われてもなぁ(笑)
――そういう時はどうするんですか?
ゆうき いやもう、考えるしかない。1コマはさめば大丈夫かなぁ、とか。
――ちょっと「キャラクターの感情が変わる」について具体的にお聞きしたいのですが。
ゆうき たとえば『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』で、主人公の駿平が、ヒロインのひびきにアタックして、色よい返事がもらえなくて、「わーっ」となったりするじゃないですか。あるいは、なにか悲しい出来事があったとします。その時の感情を翌週に引きずるべきか、引きずらないべきか。そういうことが気になるわけですね。前の週であんなことやったのに、いきなり今週ケロっとしているわけにはいかないだろう、と。「そんなこと気にせずに進めればいいじゃないですか」って言われるんですけど、ぼくは気になってしまう。
――マンガだと、たとえば時間を飛ばすこともあるじゃないですか。「それから3カ月後」みたいに。
ゆうき ぼくはそれが苦手なんです。ぼくのマンガは、1日の話を延々と描いていたりするんですね。
――それはなぜ苦手なんでしょう?
ゆうき パーっと時間を飛ばすと、キャラクターがそれ以前の感情を忘れているだろう、と思っちゃうんですよ。もうその時の感情では動いてくれない。
――映画の長まわしとかに近い感覚なんですかね? カットを割らず、ワンカットで延々と撮るような。
ゆうき そう……ですかねぇ。本当はもっと省略していいんだ、マンガは省略すべきなんだ、っていう思いはあるんです。
――個人的にはそう思っている?
ゆうき そうなんです。でも、できない。
――別の言いかたをすれば、ゆうき作品は「感情の連続性を重視している」ということなのでしょうか?
ゆうき ああ、そうかもしれないですね。
――ゆうき先生の作品は、作中の出来事を時系列順に年表にすると、すごく短いんですよね。
ゆうき そうですね、『パトレイバー』なんて1998年から2000年くらいの話。
――『白暮のクロニクル』は、まだ連載開始から半年も経っていない。
ゆうき あ、『白暮』は半年間(作中時間)のお話の予定です。
――あ、そうなんですね。
ゆうき これは言わないほうがいいのかな?
担当 いや、別にそんなことはないと思いますよ。今おっしゃったように、時間の進みかたが独特なわけですし。
- 注14 新谷かおる 代表作に『エリア88』や『ふたり鷹』、戦場ロマン・シリーズなど。島本和彦の『アオイホノオ』第2集でも登場するように、80年代を代表する漫画家のひとり。ゆうき先生は、新谷先生の元でアシスタントを務めたこともある。
進化を続けるゆうきまさみ先生。『白暮のクロニクル』と同時連載中、「ゆうきまさみがまさかのBL!?」と話題騒然の『でぃす×こみ』についてのお話も!
前編はコチラ!
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』インタビュー【前編】 画業30年を越えて初挑戦のミステリーは、計算しないで描いている!?
後編はコチラ!
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取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也