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田中雄一『田中雄一作品集 まちあわせ』インタビュー 禍々しいクリーチャーが、カッコいいしキュートだって思ってる。

2015/08/03


『プリマーテス』――生き物って気持ち悪い

――続いて『プリマーテス』ですが。

田中 あれは実在する猿がモデルです。写真を見ていて「変な顔してるなー」と思ったので、そこから発展させてあの猿を描きました。いい表情になるように、できるだけキュートに描こうと意識していました。

――キュート!

人類と同様に高度な進化を遂げた猿、「異人類」。よーく見るとキュート……うん、つぶらな瞳がキュート。

人類と同様に高度な進化を遂げた猿、「異人類」。よーく見るとキュート……うん、つぶらな瞳がキュート。


田中 できるだけ瞳をつぶらに、キュートに描きました。描いていて楽しかったですね。憎たらしい顔している動物とか大好きなんです。

――あの猿、ちょっと不気味な印象受けたんですよ。「不気味の谷」[注5]というか、表情が人間に似ているからこその気持ち悪さというか……。「害虫駆除局」の虫と同様に、気持ち悪いとか言われたら、田中先生的にはショックですよね?

田中 いやぁ、でも生きものって、基本的に気持ち悪いと思うんですよ。

――えっと、それは人間を含めての話ですか?

田中 ほかの動物から見たら、人間ってけっこう気持ち悪いんじゃないかなぁ。

――人類の立場が弱くなるというか、立場的に追いこまれるような世界観がどの作品にも共通していますよね。

田中 私の基本的な考えとして、人間は特別な種ではない、という意識があるんです。それが当たり前になっているので、そういう視点からでしか描けないんですよね。

――人間も同じ動物である、と?

田中 「人間が特別ではない」と言いつつも、現実問題としては、なんでも好き勝手できる部分はあります。なので作品のなかでは、人間の地位を少し下げてやるんですね。フラットな立場にして想像していくのが好きなんです。

――具体的にはどういうことでしょうか。

田中 ほかの動物にもちゃんと感情があって、人間とは違う精神がある。そして両者の立場関係を上げたり下げたりすることで、どういう世界になるだろうか? そういったことを考えながら、マンガに落としこんでいくのが、楽しい想像です。それは現実には存在しない、架空の生物であっても同じことで、もう自分のなかに頑強な基盤としてあるんです。

異人類に囚われた主人公が見た風景。化けものとしか思っていなかった異人類にも家族が、穏やかな日々があったのだ。

異人類に囚われた主人公が見た風景。化けものとしか思っていなかった異人類にも家族が、穏やかな日々があったのだ。


――架空の、異形な生物は、やっぱり出したい?

田中 描いていて楽しいですね。

――やっぱり漫画家さんは、描くのが好きな方が圧倒的に多いんですよね。だから、何を描くのが好きなのかで、その作家のオリジナリティが出ると思うんです。

田中 できれば全ページにみっちりと異形な生物を描きたいです(笑)

『田中雄一作品集 まちあわせ』収録の2編についてお話を伺った今回のインタビュー。次回は、のこり2編についてのお話、そしてだれもが気になっているだろう次回作について田中先生に語っていただいた!

後編はコチラ! 田中雄一『田中雄一作品集 まちあわせ』インタビュー 映画を撮るつもりでマンガが生み出される


  • 注5 不気味の谷 通常、人間はロボットや非人間的なものの造形が、人間に近づけば近づくほど親近感を抱くものである。しかし、ある一定以上の類似度を超える(似すぎる)と、それをかえって不気味な存在と認識するようになる。そして完璧に人間に近づくと、ロボットへの感情は再び親近感へと変わる。その感情的反応が谷のような曲線を描くことから、不気味の谷現象と呼ばれる。もともとは機械やロボットに対するロボット工学上の概念。

取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也

単行本情報

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