「害虫駆除局」は心が元気なときに読むべし!?
――この『田中雄一短編集 まちあわせ』に収録された4作品は、どれもすばらしくて、できるだけ多くの方に読んでいただきたいと思っているんですよ。
田中 ありがとうございます。
――そこで、田中先生から作品ごとに一言もらえますか? 短編集のラストによくあるような「あとがき」っぽい感じで、思い入れとか、見どころなんかをうかがえれば。
田中 そうですね、「害虫駆除局」に関しては、心が元気なときに読んでください(笑)
――心が元気なとき(笑)
田中 ちょっと落ち込んでいるときに読んじゃうと、よくないかなと思います。いろいろと見たことがないような生き物が次々と出てくるように意識して描きましたので、元気なときに、何も考えずにどんどんページをめくっていってもらえるとうれしいです。
――描いていて苦労したのは?
田中 やっぱり脚の数ですね。
――ああ、やっぱりそうですよね。
田中 虫がいっぱい出てくるシーンなんて、脚ばっかり描いていました。
――あのー、ちょっと疑問だったんですが……。
田中 なんでしょう?
――なんで虫にしたんですか?
田中 (笑)
――いや、一般的に虫って、苦手な人も多いと思うんですよ。「キモい」とか「グロい」みたいな反応は、あらかじめ想定されていたのかな、と。
田中 大きい虫が出てきて大暴れするのは、ド直球のエンターテインメントだと私は思っていたんです。
――『寄生獣』にしても『進撃の巨人』にしても、はじめて見たときは気持ち悪かったですよね。ではそういった部分で読者をビビらせてやろう、みたいな気持ちは?
田中 そういう部分も含めて、楽しみのひとつだと思っていたんです。ところがいざ描いてみると、人を選ぶ形になっちゃいましたね。私の友人のなかにも「気持ち悪くて無理」と本を閉じてしまったのもなん人かいたようです。
――あ、じゃあそういう読者のリアクションは予測してなかったんですね。
田中 なかったです。
――あの12本脚の虫の造形は、どうやって思いついたんですか?
田中 基本的には実在する虫をモデルにしていますが、特徴はやはり脚が12本ある、ということです。「大きい虫が出てきて大暴れする」にしても、ただ虫を大きくするよりは、何か特徴があったほうがいいな、と。
――わかりやすいように、あの虫の造形モデルを作ったりとか?
田中 や、そういうことはしてないですよ。完全に頭のなかだけで。
――虫……お好きですか?
田中 いやぁ、どうだろう?(笑) 造形としては好きですけど、うーん、虫自体は苦手です。苦手だから描いた、というのはありますね。
――図鑑とか見ながら描いたんですか?
田中 そうです。描いているときは不思議と全然気持ち悪いとか思いませんでした。というよりも、「カッコいい!」とか「美しい」とか、自分でもほれぼれしながら描いてましたよ。だから「気持ち悪い」という反応はちょっと……(笑)。本当に想定外でした。