『リトル・フォレスト』第1巻
五十嵐大介 講談社 \950+税
(2004年8月23日発売)
残暑は厳しくても、8月が終われば夏も終わりへ。9月に入れば秋が近づいていくが、8月31日は8・3・1=ヤ・サ・イの語呂合わせから「野菜の日」。実りの秋を間近に、野菜の日に読むのにぴったりなのは、五十嵐大介『リトル・フォレスト』だ。
つきあっていた男性と別れ、故郷である東北地方のとある村の集落・小森に帰ってきた、いち子。かつて母と暮らした家にひとりで住み始めたいち子は、めぐる季節にさまざまなこと発見し、ときに昔を思い出しもしながら、日々を送る。大根、人参、ホウレン草にキャベツと、あれこれ野菜を育ててもいるいち子だが、耕している畑以外にも、山ウドやミントやクレソンなど、食べられて、楽しませてもくれる野菜はここそこに生えている。
第1話でいち子が収穫して調理するのは、家の脇に生えたグミの木の実。酸味のあるグミをジャムにしながら、街で一緒にグミの身を食べた彼氏のこと、かつて母の言っていた「料理は心を映す鏡よ」という言葉を思い出すいち子。煮あがったジャムは、透明感のない濁った濃いピンク色だ。それでもジャムは、今の食卓を、そして今の彼女を満たしてくれる。
スローフードというほどこじゃれてもかしこまってもいなくて、自給自足といってしまほうどロマンもリリシズムもないわけじゃない。そんな五十嵐大介の温かで細やかなスケッチ。自然の情感だけでなく、自然体の情感がページから感じられるはずだ。
橋本愛の主演による2部作で、映画化もされた本作。芸術の季節、食欲の季節でもある秋に向けて、自然の実りの豊かさを本作から味わってみては? 第2巻に登場する春蒔き大根のタルトが、なんともおいしそう!
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。