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【ロングレビュー】 砂漠が美しいのはどこかに井戸を隠しているからさ 『クジラの子らは砂上に歌う』 梅田阿比

2014/06/02


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クジラの子らは砂上に歌う 2
梅田阿比 秋田書店 ¥463
2014年4月16日発売

 箱庭世界を舞台にした作品は、どうしてこんなにも人を惹きつけるのだろうか。容易には抜け出せない閉ざされた楽園、あるいは地獄。まるで鍋の中のスープのように、そこでは住人同士の想いや軋轢がグツグツと煮込まれていく。だから、濃密な時間が流れる。


梅田阿比『クジラの子らは砂上に歌う』の舞台は、「泥クジラ」と呼ばれる漂泊船。農園も工房も貯水池もあり、自給自足を行える浮き島のような場所に513人が生活する。「流刑」というキーワードは語られているものの、なぜ彼らが砂の海をひたすらさまよっているのか、2巻の段階では明かされていない。そして、住人たちは「印(シルシ)」と呼ばれる短命の能力者と、能力を持たない長寿のリーダー的存在「無印(むいん)」に分かれる……。

泥クジラは船とはいえ、その周囲は海ではない。海が開放的で、生命を産む母なる存在だとしたら、砂漠はその逆のベクトルにあるものだろう。フランク・ハーバートによるSF小説の傑作『デューン 砂の惑星』の例を挙げるまでもなく、生と死の境界線を強く意識させる砂の世界は、そこに暮らす者たちのドラマを浮かび上がらせる。この作り込まれた世界は、いくらでも読者の想像力を刺激する。

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主人公チャクロたちは、漂泊船「泥クジラ」のなかで完結した生活を送っていた。 しかし、流れてくる「島」に出会い、時間は動き出す。

単行本情報

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