話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『このマンガがすごい! comics 桜通信』
『このマンガがすごい! comics 桜通信』
遊人 宝島社 ¥590+税
(2017年4月22日発売)
遊人という漫画家の名前は、80年代後半〜90年代に青春を送った人たちには特別の響きを持っているはず。思わず股……もとい胸が熱くなるビッグネームだ。
そういう筆者も、リイド社や「リイドコミック」の存在を知ったのも、連載していた『校内写生』のおかげ! というぐらい(リイドさんすいません)。当時は「レモンピープル」などロリコン雑誌が書店でアニメ雑誌と並んでいたり、パソコン用のアダルトゲームを小学生がフツーに買えたり(実話)した、おおらかな時代がそろそろ終わりを告げようとした頃だ。
熟女より美少女、色気よりかわいらしさのエロは人目をしのぶオタクだけが独占する趣味。そんな歪んだ選民意識が、『校内写生』の大ヒットでガラガラ崩れ去った。単行本が100万部突破って、オタクだけじゃありえない。
遊人はすでにデビューから10年目の中堅で、もともとは劇画タッチだった。そんな卓越した画力と社会的な背景も描ける遊人が当時なにかと話題になっていた「ロリコン」に寄せ、『校内写生』が100万部の大ヒットとなり、オタクや一般人の股ぐら、いや心をつかんだのだ。
画風を「進化」させる天才は、あっという間にトップランナーとなった。ことさらマンガに目くじらを立てるお上に標的とされるぐらいに。89年にはとある大事件が発覚したことがきっかけで、暴力や性表現のあるマンガを取り締まろうとする有害コミック騒動が燃え上がった。オタクに人気の麻生太郎氏も「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」に参加したひとりだ。
そんな流れのなかで、「週刊ヤングサンデー」に連載中だった遊人の『ANGEL』が目をつけられた。『お〜い!竜馬』など爽やかな作品と男子高校生がエッチしまくるマンガが同時に載ってる誌面はすごかったが、その混沌こそマンガ雑誌の生命力だろう。
……が、いかんせんメジャーになりすぎた『ANGEL』は一時休載に追いこまれ、単行本も回収されて続きが出ないことに(のちに他社から刊行)。