日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『桜通信』
『このマンガがすごい!comics 桜通信』
遊人 宝島社 ¥590+税
(2017年4月22日発売)
スケベ心を沸かせた男が、ときに純真、ときに小悪魔チックでしたたかな女の子たちにふりまわされて味わう悲喜こもごもをコミカルに描いて、1990年代以降の美少女コミック分野で大成功した漫画家、遊人。
多様なメディア展開を広げた初期の人気作『校内写生』、一般誌連載で大ヒットするも90年代当時の有害コミック騒動に巻きこまれ色んな意味で知名度を上げた『ANGEL』、ハーレムラブコメをエロに寄せまくって独自色を出した『学園天国』などなど……多岐にわたる作品履歴のなかで、遊人の“代表作”と呼べそうなタイトルはいくつか挙げられる。
「週刊ヤングサンデー」で1995年から2000年まで連載された『桜通信』もまた、そのうちのひとつだ。
大学受験に失敗した青年・因幡冬馬と、幼なじみで従妹の春日麗との同居や恋人関係を軸に、慶應義塾大学の美人女子大生・四葉美咲子をはじめとする様々なヒロインに冬馬が惑わされることで起こる色恋沙汰のこじれをつづる『桜通信』は、遊人ならではの軽妙なH要素と、ドラマティックにうねるストーリー展開がうまく噛みあい、エロコメというよりはロマンティックコメディの秀作となった。
単行本にして全20巻を重ねる長大な物語のなかで、読者は冬馬の身勝手ともいえる恋愛行動にやきもきしつつ、彼に対して自己犠牲的なまでのけなげさで想いを寄せる麗にほろりとさせられ、2人の関係がどう変化していくか目が離せなくなっていく。
そんな本作は、のちに電子書籍版がリリースされたり、近年には主人公とヒロインを替えた新作『新・桜通信』を展開しているが、おおもとの出発点を紙の本で読む機会はやや遠のいていた。
そこへ、このたび宝島社「このマンガがすごい!comics」レーベルから復刻本が出ることに!
やあ、これはありがたいですね。
今回刊行される単行本では、受験をひかえて都会に出てきた冬馬が自分をはげますため久しぶりに会いにきた麗のことを思い出せず追い返してしまう幕開けから、浪人生になった冬馬が美咲子に見栄をはって慶大に受かったと嘘をつくことでややこしくなる状況と手痛い失恋、さらに麗が冬馬と2人きりで生活したいがために、親が外国への単身赴任で長期不在だという事実を隠していたことが冬馬にバレて同居が破たんするという、序盤の山場までが収録されている。
リアルタイムに本作を読んでいた世代がなつかしむために手に取るもよし、受験シーズンを乗り越えた新大学生が苦労をしのぶきっかけとして初めて読んでみるもよし。
桜が咲き、そして散りゆく4月におすすめの1冊だ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7