日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『脱オタしてはみたものの』
『脱オタしてはみたものの』第1巻
板場広志 芳文社 ¥590+税
(2015年11月16日発売)
「脱オタ」という単語は、使いドコロが難しい。
というのも、オタク趣味を恥ずかしいこととする表現だからだ。
主人公の台東は、もとはゴリゴリのオタクだった。
同人誌を定期的に描いた。大好きな声優の「有明るい」のファンで、追いかけていた。
マンガは出版社の目に止まり、プロデビューもした。単行本も出した。
プロの漫画家になってからは、仕事にプレッシャーを感じ、苦しむ。
そこに入ってきたのが「有明るい引退」の報。
彼は、マンガを描くのをやめ、サラリーマンになった。
今は、晴海というかわいらしい女性と婚約。
すっかりオタク趣味から足を洗っていた。
忙しかったからでもあり、彼女に知られたくなかったからでもある。
ところが彼の前に、有明るいが現れる。
かつて偶然にも台東の描いていたマンガのファンだった有明は、性的に彼に迫る。
その時彼が取った行動は、「マンガを描く」だった。
「脱オタ」という言葉は、オタクが使うものだ。
抜けだそう、とするから使う。そして多くのオタクは「抜けだせるものではない」のも知っている。
台東は、やはり抜けだせなかった。
かつての憧れの女性を目の前にしている。彼女に触れられる距離にいる。
にもかかわらず、自分の欲望を、マンガに描かずにいられなかった。
評価されないかもしれない。でも自分の妄想を形にして読んでもらいたいと考えた。寝食を忘れて没頭した。
これは「オタクのサガ」であると同時に、「クリエイターのサガ」だ。
婚約者の晴海は、彼がマンガ好きだからといって卑下することはなさそうな女性。
むしろ趣味に情熱を抱ける彼を、応援するだろう。
周囲の人間にも恵まれている彼。オタクであることをひとり勝手に恥じているようにすら見える。
彼にとっての「脱オタ」とは、オタクか否かの線引きをしない人間になる、という意味になりそうだ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」