そんな遍歴を思い返して『桜通信』を手に取ると、万感が胸にこみあげる。あの騒ぎがあったあと、遊人マンガは吹き荒れるバッシングをやりすごそうとしていたはず。で、今読むと……一般誌でこの過激さ!
受験生・因幡冬馬(いんば・とうま)が受験のためにホテルに泊まっていると、見知らぬ美少女が訪ねてくる。いきなり脱ぎ始めて「お客」の話をするブルセラ(懐かしい)少女を追い返す冬馬。その娘が幼なじみの春日麗(かすが・うらら)で、試験前の緊張をほぐそうとするお芝居だったとも知らずに……。
すばらしい。清純な処女が売春のフリして初恋の男を励ますのはちょっと意味がわからなすぎる気もする、その振り切れ方が青春の暴走。裸エプロンや高いところでノーパン、お風呂で背中を流してくれる麗に手を出さない冬馬は、「また騒ぎになりませんように」と表現を寸止めする作者の葛藤と重なる。
いや、結局手を出すんですが。
主な舞台は慶応大学、様々な女性と懇ろになる主人公に一途なヒロインーーということで、ほぼ同じ設定かつ同時代の『東京大学物語』(江川達也)をあわせて読むと、90年代後半の世相が立体的に浮かび上がってくる。ただ、本作ならではのオリジナリティは、「純愛とは何か」にたどりついた最終回にこそある。
できれば全巻を復刊してほしい!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。