日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『おもたせしました。』
『おもたせしました。』 第1巻
うめ 新潮社 ¥620+税
(2017年4月8日発売)
発売されてすぐ重版がかかった、『スティーブズ』著者・うめの最新作は、手土産を題材にした食べものマンガ。
いろいろな取引先に向かう際、手土産を欠かさないヒロイン轟寅子。
彼女は“自分が食べたいもの”を厳選して手土産にする。
行った先々で、おなかが鳴ってしまう寅子。
お家の人は、もらった手土産を開きながらいう「おもたせですが」。
(“おもたせ”は、手土産をもらった側がそれを指していう言葉)
各話に出てくる手土産は、ちょっと変わり種。
浅草“大多福”のおでんは、壺入りだ。
“アトリエ ド フロレンティーナ”はフロランタン専門店、売っているおみやげは木箱いりで、ちょっと和菓子っぽい。
手土産を食べながら話していると、だいたい文学の話になる。
おでんを食べながら、おでん屋台が出てくる坂口安吾『街はふるさと』の話題を寅子が語る。
取り壊しが行われている団地を訪れた際は、さびしいながらも長く生きていると変遷が見られる、と書いた田山花袋『日本橋附近』の話をする。
寅子が家を訪れるのは、ほとんどの場合が貴重な資料を貸し借りするのが目的。
それが、マイナーな地域史の本だったり、脚本だったり、幕末の肉食の資料だったりと、幅が異常に広い。
どういう仕事なんだろう?
加えて、“さくらちゃん”と呼ばれている寅子の叔母さんの存在が謎。
かなり頻繁にLINE風のメッセージで登場するが、本人は一度も出てこない。
いっしょに暮らしており、かなり仲もよいフランクな関係の様子。
寅子の仕事につながっているようだがはっきりとは描かれない。
食と文学と歴史と、その土地に住む人の人生。数多くの切り口から描かれた作品。
メインストーリーは1話完結でシンプルだが、題材として使われているギミックはたいへん入り組んでいるので、かなり読みごたえがある。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」