日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『水木しげる漫画大全集 水木しげるの遠野物語/水木版妖怪大戦争』
『水木しげる漫画大全集 水木しげるの遠野物語/水木版妖怪大戦争』
水木しげる 講談社 ¥2,600+税
(2017年5月2日発売)
小説家・京極夏彦の責任監修で刊行されている『水木しげる漫画大全集』第3期第5回の配本となる、『水木しげるの遠野物語/水木版妖怪大戦争』。
『~遠野物語』は、民俗学者・柳田國男が岩手県遠野地方の伝承をまとめた民話集のマンガ化。
そして『~妖怪大戦争』は、水木サンが“プロデュースチーム「怪」”のメンバーとして製作に参加し、“妖怪大翁”役で出演もした三池崇史監督の映画『妖怪大戦争』(2005年版)が原作。
両作ともコミカライズでタイトルからして名前が冠されているとおり、どちらも著者ならではの味つけが満載で、これぞまさにな水木ワールドに仕あがっている。
原作の怪異譚を忠実にマンガ化しながら、水木サン自身が遠野へ旅をするという脚色が採られている『~遠野物語』では、なんと水木サンと柳田國男の亡霊が妖怪談義を始めるという場面も!
原作にあるどこか飄々としていてトボけた、それだけによけいに摩訶不思議な味わいが、コミカライズの手法にもつらなり、つながる。
また「~妖怪大戦争」は、麒麟送子(キリンソウシ)という神職に選ばれた少年タダシが妖怪たちの力を借り、日本転覆を企む謎の男・加藤に立ち向かうストーリー。
映画自体の原案となっている『妖怪大戦争』(1968年)は西洋の妖怪と日本の妖怪が文字どおり戦争を繰り広げる話だったが、妖怪同士は戦わないというのが水木流。
本作においても、妖怪たちは好き勝手ふるまっている。
自由だなぁ、愛おしいなぁというのが、両作含めた水木ワールド――著者が描く妖怪と、著者自身に対する感想だ。
奇をてらうことなく、妖怪も著者も泰然自若としてそこに居る、そこに在る。
それがいいのだ。
大きな話になるけれど、世のなかには悲劇も喜劇も、幸せも不幸せもついてまわる。
でもそれが生きるということで、そのつど、驚きや落ちこみはするにしても、ありのまま受け止めて楽しめばいいんだ……と、妖怪たちの話を通じて、そんな心境にさえ、させられる。
いやしというものなのかもしれない。
少なくとも水木サンにとっては、そして水木作品を読む読者にとっても、妖怪は間違いなく現代社会のいやしだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。