『ペン太のこと』第1巻
片倉真二 講談社 \800+税
(2014年8月22日発売)
猫はなんにもしてくれない。犬のように家の番をしてくれるわけでもなく、ネズミがいない家ではとくに実用性なし。それが「家族」だ。家族に役に立つとか求めはしない。そこにいてくれればいい――とは、このマンガや人伝えで知ったこと。自分でペットを飼ったことのない僕にはその実感も経験もない。
ただ、作者の片倉くんが「デクちん」と呼ばれ、『ウルティマオンライン』でヒドいプレイ(不動産の詐欺まがいだっけ)を楽しんでた頃からほどなく知り合ったひとりとしては、そういうもんだなと思える。当時は彼も結婚したばかりで、夫婦仲も大丈夫かな?とまわりもハラハラしていた。
で、そういう話をぱったり聞かなくなった。デクちんもほんわかした雰囲気となり、お子さんでもできたのかなと……僕は思っていた。その推測は半分だけ当たってた。猫っていう「家族」ができていたのだ。
家族はきれいごとではすまない。朝早くて眠いのにご飯をせがまれ、忙しい仕事を邪魔され、ウンチの片付けも飼い主まかせ。ネコは飼い主とペットって上下の意識もないらしく、それだけ家族なんだろう。
そして末期がんが全身に転移して、あれだけ大食いだったペン太がボロボロになるまで。おいしいところのつまみ食いでは済まない、かわいい子猫のあいだだけ猫っかわいがりとはまるで正反対にある付き合い。言葉の通じない人と猫がこうも豊かなコミュニケーションが出来るのか。もし自分なら、別れの哀しみに耐えられるのか……。うらやましいとか泣けるとか、どんな言葉も薄っぺらく思えるマンガです。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。