『逃げても逃げても』
ねむようこ 小学館 \429+税
(2014年9月10日発売)
「もう目の前にあるもの全部放り出して逃げてしまいたい!」なんて衝動に駆られたことが、だれでも一度はあるのでは。
本作の主人公・サキさんは少女漫画家。仕事柄、締切に追われる過酷な日々を送っている。ストレスがマックスに達すると大事な恋人の存在さえもうっとうしく、ひとりになりたいと思ってしまうのだが……。
やや天然でマイペースなサキさんは、同棲相手のみいくんにやつあたりしてしまうことも。かと思えば、仕事がノッてるときには彼をほったらかしにしたり。
みいくんは、そんなサキさんにおおらかに接する相当できた恋人だが、単に“いい人”というよりどの部分をスルーしていいかをよくわかってるのかも。要は、これぞ相性バッチリということなんだなぁ。
つきあって5年、いっしょに暮らし始めて3年。2人の不思議な“かみ合いっぷり”が心地よい。何もかも分かちあっている相手だからこそ、ときには甘えすぎちゃうこともあるけれど……感情のままになんでもつらつら話せる相手がいるって、なんて幸せなことだろう。
整理のつかない心の中のモヤモヤが、話しているうちに、いつのまにやら晴れていく。「答えが出る」というよりは、もともとモヤモヤなんてなかったみたいに。2人の、ときにとりとめもないようなおしゃべりを眺めているだけで、なんだか我が身の疲れもほぐれていくようだ。
たとえ逃げたって、一生逃げ続けることはできない。そして、やっぱり人間には本能的に「帰りたい」という気持ちが備わっているはずだ。
安住することは“あきらめ”ではなくて、生産的で豊かなこと。2人の日常をのぞいていると、そんなことに気づかされるのだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」