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今回紹介するのは、『恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より―』
『集英社文庫 恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より―』
上遠野浩平(著) 荒木飛呂彦(作) 集英社 ¥650+税
(2017年6月22日発売)
今夏ついに実写映画が公開された『ジョジョの奇妙な冒険』。今回の実写映画化に限らず、今までゲーム化、アニメ化と様々なメディアミックスを繰り返してきたジョジョだが、忘れていけないのはノベライズだ。
今回紹介するのは、そんな数あるノベライズのひとつ、『ジョジョ』5部の登場人物である、パンナコッタ・フーゴを主人公にした小説『恥知らずのパープルヘイズ』だ。
本作を紹介する前にまず『ジョジョ』の5部についておさらいしておこう。
主人公はDIOの息子であるジョルノ・ジョバァーナ。
正式なジョースター家の系譜ではないのだが、DIOの身体の首から下はジョナサン・ジョースターの肉体になっているので、いちおうジョースターの血が流れているというわけだ。
ジョルノはつらい少年時代をギャングの男に救われたことをきっかけに、ギャングスターに憧れるようになり、実際にギャング組織パッショーネに入団することになる。
ブチャラティをリーダーとするチームにわり振られたジョルノは、当初はボスの命令で組織の裏切り者である暗殺チームたちと戦っていたが、ボスの娘に関する処遇でボスと対立。そしてジョルノたちはボスと戦うために組織を裏切ることになるのだが、そんななかチームでひとりだけ組織を裏切れなかった男、それがパンナコッタ・フーゴ。
キレやすくはあっても、普段は論理を優先する現実的な青年だ。
当時の読者は「フーゴはきっとジョルノたちのピンチの時に再登場するに違いない」「逆にボスの刺客となってジョルノたちを始末に来るかもしれない」などといろいろ想像したものだが、結局その後、回想シーンを除いてフーゴが再登場することはなかった……。
このフーゴのなんともいえない退場に関して、フーゴのスタンドである「パープル・ヘイズ」の「範囲に入った者を敵味方関係なく死に至らしめる殺人ウィルスをまき散らす」という能力が強力すぎたからなどと予想されていたが、真相は闇のなかである。
そんないろいろな意味で不遇なキャラであるフーゴのその後の話を描いたのがこのノベライズだ。
著者は人気ライトノベル「ブギーポップ」シリーズを手掛けた上遠野浩平。
物語の始まりはジョルノたちとボスの戦いが終わってから約半年後、ジョルノは組織の新しいボスに君臨しており、フーゴはそのジョルノから呼び出されていた。 呼び出された先で待っていたのは、かつての仲間、グイード・ミスタ。
ミスタにいわせれば、一度自分たちと袂を分かったフーゴを信用することはできない。 それを解決するためには、ある任務を達成して自身の忠誠を証明しなければならない。 かくしてフーゴは新しい仲間とともに、かつての組織の負の遺産である麻薬チームの壊滅に挑むことになる。
本作で登場するメインキャラは、フーゴ以外は敵も味方もほぼ新キャラなのだが、そこはジョジョの熱心なファンであることで知られている上遠野浩平。それぞれが抱える過去のエピソードだったり、なにげない軽口の叩き方だったり、その1つひとつが非常にジョジョっぽく、荒木飛呂彦が描きそうなキャラを見事に再現しているのだ。
そしてジョジョの魅力のひとつに、超能力が具現化したスタンドによる派手なバトルがあげられるが、小説であれを再現するのは至難の業だ。そこで本作では精神攻撃系のスタンドが多く登場し、原作とは少し雰囲気の違う小説ならではのスタンドバトルが展開されているのもお見事。
また、今作のオリジナルキャラが原作の登場人物と意外な関係にあったり、ジョジョファンにはおなじみの“あのアイテム”が登場したりと、ファンサービス的な楽しみも随所にちりばめられているのもうれしい。
かつて仲間たちが組織を裏切った時に、どうしても動くことができなかったフーゴ。
あの時踏み出せなかったその一歩を、フーゴは今度こそ踏み出すことができるのか。
物語の途中で退場し、その後の話がまったく語られなかった男の続きを描く物語。
そんなだれもが気になっていたからこそ難しい題材に挑戦し、見事読者の期待に応えた本作は、まさに画竜点睛というべき一作だ。
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog