『先生の白い嘘』第2巻
鳥飼茜 講談社 \562+税
(2014年9月22日発売)
生まじめでもないのに地味で、まっすぐでもないのに不器用に生きてきた、高校の現国教師の原美鈴。なにより彼女が地味で不器用であるのは、女性という“性”に対してだ。
そんな美鈴は、ある男となかば犯されるような情事を続けている。美鈴の同級生・美奈子の婚約者である早藤だ。早藤を拒みながらも快楽を覚え、またそこで覚える嫌悪感から男子生徒を傷つける美鈴。もつれる関係のなかで、彼女の周囲の人間たちの欲望と傷とエゴが浮き彫りになっていく……。
これまで『おはようおかえり』『おんなのいえ』と作者の作品を読み続けてきた読者は、ついに鳥飼茜はここまで達したかと驚かされているに違いない。
かつての岡崎京子における『リバース・エッジ』。最近では、ヤマシタトモコにおける『ひばりの朝』。洒脱で、人間も掘りさげた大人の少女マンガの描き手が、ある境地にたどりついたと思わせる凄みやえぐ味が、本作にもある。それはダイレクトにセックスを扱っているからだけでなく、誰しもどこかで共感してしまう、女や男の恥部や暗部がリアルにも情感的に描かれていればこそだ。
性(せい)を扱った肉体のポルノグラフィではなく、性(さが)を抉った精神のポルノグラフィ。人間をここまで広い意味で裸にして描けるのかという驚きだ。
筆者がもともと鳥飼茜をすごいと思ったのは、『おはようおかえり』にあった、こんなやりとりだ。
身体が目当てなのかと怒り、男をなじって結果として甘える──つまるところは女であることの自尊心を最大限にアピールして男より強者であろうとする女性。そんな女に対して、男は彼女の身体はそれほどでもない、セックスはそれほど魅力的でもないと言いきる。
性をめぐる男女の意識の差を描ききる女=作者のすごさ。『先生の白い嘘』は、そのすごさの上をいく。
こんなずるい女、いるいる! こんなひどい男、いるいる! という、人間観察のおもしろ味で本作を読むのも一興だろう。 ただそのうえで、そんな男と女を奇妙しくもおかしくしく、そして究極的にはいとおかし者として、立体的に描き出せる鳥飼茜のすごさにも唸らされるはずだ。美鈴とまわりの人間たちの裸のドラマ。その先行きにハラハラもゾクゾクもさせられる。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。