日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『先生白書』
『先生白書』
味野くにお イースト・プレス ¥819+税
(2017年9月16日発売)
タイトルの『先生白書』にある「先生」とは、『幽☆遊☆白書』の著者である先生……つまり、冨樫義博先生のこと。
本作はその冨樫先生のアシスタントを『幽☆遊☆白書』の連載初期から『レベルE』終了までつとめた、味野くにおによる「冨樫義博ルポマンガ」である。
手がけた作品の人気の一方で、休載の多さでも知られるゆえか、様々な憶測や噂がまことしやかに語られることも少なくない「先生」。
その実態に迫るルポマンガとなると、さぞギリギリなエピソードも……? と思いきや、本作で描かれるのは穏やかすぎて逆に驚いてしまうほどの日常がほとんど。業界の内幕の暴露や、あるいは創作にまつわる凄絶な秘話といった“濃い”エピソードを期待された方には正直、やや肩透かしかもしれない内容ではある。
しかし、そもそも「冨樫義博はアシスタントを使わない」という噂を聞いたことはないだろうか?
ネット界隈ではその理由についても、もっともらしく書かれていたりするのだが、そこからして「なんだ、あれって全部ウソじゃん!」ということがハッキリとわかるのである。となると、本人以外には推しはかるしかない内面的なところはともかく、表向きは極めて穏やかであったというのが真相であっても不思議ではないだろう。
もちろん、穏やかに見える日々だけではなく、そこからチラリと見え隠れする「やはりこの先生はスゴイ!」と思わずにはいられないエピソードも見逃せないポイント。
そして「息抜きとして」やたらゲームをしているのは、どうやら真実であることも赤裸々に描かれていたりはするが、基本的にはマンガ以外のことには無頓着であり、ずっと自分の目指すマンガ表現の道を歩み続けている「先生」の姿を見ることができるだろう。
これを読めば、きっと『HUNTER×HUNTER』の連載再開も、穏やかな気持ちで待つことができる……かもしれない。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。