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【日刊マンガガイド】 『蟹に誘われて』 panpanya

2014/06/04


kanini

蟹に誘われて
panpanya 白泉社 ¥1,080
(2014年4月25日発売)

プレオープン中だった本サイトに掲載されたインタビュー記事が話題を呼んだ、気鋭・panpanyaの最新単行本。「楽園」(白泉社)本誌やweb増刊で掲載された作品群に、同人誌発表作や描き下ろしをくわえた全18編を収録した短編集。直接取引のみの販売のため、一部店舗でしか入手できなかった処女作『足摺り水族館』(1月と7月)とは異なり、全国の一般書店や各ネット書店で購入できる。

panpanyaワールドを「寝入りばなに見る夢のような作品たち」と評した『足摺り水族館』のオビ文は、まさに言い得て妙だ。夢と現実を二元論的に切り分けず、どこか地続きになっているような世界観は、不安定なまま確固たる不安にはなりきらず、滑るように別の感情へとスライドしていく。この日常は、不穏で平和だ。

この世界観は、ただ画力によるものだけではない。ストーリー展開のテンポと、ネームのリズムによっても紡ぎ出される。「この犬を黙らせなければ 完璧な日曜日などありえない」(「THE PERFECT SUNDAY」より)というフレーズなど、それだけで作品世界から空気と風をもたらしてくれるようだ。

そういった独特な手触り感は、本作収録の全編にも共通している。道でタラバガニを発見した少女がタラバガニを追いかけていく表題作「蟹に誘われて」、降りる駅を間違えた少女が彷徨う「方彷の呆」などは、自分の認識したままに、目の前に世界が開けていくような感覚を味わえる。

そして各話のオチに思わずにやけたり、「なんだそれ!」とつぶやいたりするところで、ちょうど目覚めの時間を迎える。
個人的には、本サイトのインタビューで語られた「魚は甘く見られている論」のあとに、「魚の話」を読むことを強くオススメしたい。


<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。


掲載中のpanpanya先生へのスペシャルインタビュー記事(前後編同時掲載中)も要チェック!

【インタビュー】 単行本に水槽が付録でついてくる!? 『足摺り水族館』 panpanya 【前編】
【インタビュー】 魚は、ほかの動物より甘く見られている…? 『足摺り水族館』 panpanya 【後編】

単行本情報

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