「このマンガがすごい!」編集部主催の新人賞「『このマンガがすごい!』大賞」。優秀賞は「即コミックス化」、そして「『このマンガがすごい!WEB』に掲載」です!
応募総数82作品のなかから選ばれた最優秀作品が、ついに決定しました。
第5回となった今回の受賞作『フォーカス&コントラスト』は、「絵の巧みさ、構図の工夫、それを活かした場の空気を切りとる力がすばらしい!」「かつて宝島社の雑誌でも多数作品を発表した”岡崎京子”を彷彿とさせる!」といった審査員からの賞賛の声を受けた完成度の高いものとなりました。
12月10日の発売に先駆けて、『フォーカス&コントラスト』の作者・町村チェス先生に、『このマンガがすごい!』大賞応募の経緯から、受賞までの流れをうかがいました!
本編の試し読みは12月10日から!
応募は「宝島社のマンガ」を読んで
町村 ありがとうございます。でも、まだ、あんまり実感がないです。
――何を見て、この賞に応募されたのですか。
町村 「このマンガがすごい!」のサイトですね。もともと宝島社から出ている本自体が好きだったんです。自分の本棚を見ていたら宝島社さんのマンガとか本が多いなー、と。それでサイトを見てみたら、新人賞の募集をしていたので。
――ちなみに宝島社のマンガというのは、「CUTiE」などで連載していたマンガなどですか? 今回、審査員のおひとりに「岡崎京子の匂いがする!」と評された方もいました。岡崎京子さんのマンガの影響とかってありますか。
町村 そんな、恐れ多いですよ。もちろん、宝島社さんが出していた岡崎京子さんの作品は大好きで、読者としてよく読んでいましたけど。あと、宝島社さんのマンガだと、朝倉世界一さんの『地獄のサラミちゃん』とか。
――では、ほかに影響を受けた漫画家さんなどいらっしゃいますか?
町村 影響というとおこがましいですが、『ザ・ワールド・イズ・マイン
』の新井英樹先生の作品はよく読んでいましたね。――青年誌もお好きなのですね。
町村 読む量としては多い方じゃないんですけれど。友だちとかにこれいいよって言われて読むことが多いですね。『ホムンクルス』の山本英夫先生とか、『フラグメンツ』の山本直樹先生とかも好きです。
応募したのは一冊の同人誌(?)
――町村さんが応募されたのは、生原稿ではなく、製本された同人誌でしたよね。
町村 そうなんです。もともとつくったものが手元にあって、サイトで応募要項を見たときに「これでいいんだ!」ってなって。同人誌でも応募オッケーという賞は少ないと思いますし、長編は一部がネームやプロットでもいいっていうのも、「おお!」って。マンガを描いている人にとって、とても応募しやすい賞だと思います。
――受賞後、コミックス化するにあたって、送っていただいた同人誌に収録されていた「ゾーンフォーカス」を加筆修整したわけですけど、完成したものを再構築する作業というのは?
町村 いや、もうマンガとしてはどうしようもないと自覚してたので……あらためて描くことができてラッキーでした(笑)。あと、じつは同人誌としてまとめたものは、売るために作ったんじゃないんですよ。自分の気持ちを綴るためだけに作ったというか。じつは世の中に5冊くらいしかないんです。
――あ、そうだったんですか。かなり製本がしっかりしていたので、それこそ作風的に、文学フリマとかで出されていたのかなと。
町村 いえいえ。本当に他人に見せることなんて考えてなくて。じつは結婚することが決まったときに、もうこんなふうにマンガを描いたりできるような生活は終わりだろうって思って、とりあえず形にしたくて。それだけです、本当に。
原稿を最後まで描くためには……
――ちなみに応募作品は中編の「蜘蛛の糸」と「ゾーンフォーカス」の2編で構成されていますが、描いた順に収録されたんですか?
町村 描きはじめたのは「ゾーンフォーカス」が先です。でも、途中で描くのに飽きてしまって。「ゾーンフォーカス」を半分だけ描いてから、「蜘蛛の糸」を描き始めました。それにも飽きて、また途中で「ゾーンフォーカス」に戻って(笑)。
――でも普通の人は、途中で飽きてしまったら、そこで描くのをやめますよ。お話が完成していない状態でマンガを描くのを止めてしまう人のほうが、圧倒的に多い。
町村 1作完成させることが大事みたいなのをどっかで聞いて、それで気を取り直したような気がします。
――一度、別の作品を描ききって、戻って見たのがよかったのかもしれませんね。ただ自分の想いの消化のために描いて完成させたっていうのも、いいのかも。切実さがありますよね。そもそも、世の中には「(マンガの賞に)応募しようと思って描く人」も多いですから。それで完成しないことも多いですし。極端な例だと、作中のきょうちゃんみたいな人もいますよね(笑)。
町村 本当ですか? 完成させることができてよかったです(笑)。
美術の成績は「2」!?
――この応募作品「蜘蛛の糸」「ゾーンフォーカス」を描く前にも、マンガは描かれてたんですか。
町村 いや、ないですね。これがほぼ初で。
――賞に応募される方だと、いろいろな出版社さんに応募や持ち込みをしていたり、あと学校で美術系の勉強をしている人などが多いのですが、そういう感じではなく。
町村 美術の成績、2でしたからね。高校のときは嫌すぎて授業に出てすらいなかったです(笑)。
――そんな人が、なんでまたマンガを描こうと。
町村 描こうと思ったきっかけは、年上の友人と話していたときに、「今思っていることって、時間が経つと忘れるから、記録に残しておいたほうがいいよ」って言われて。「そんなもんなんだ」って感心して、それで感じたこととかの記録としてマンガを描こうと。
――なるほど。でも、小説やエッセイではなく、マンガという絵を使うメディアを選んだ理由は?
町村 最初は文章にしようと思ったんです。でも、これが壊滅的に書けなくて(笑)。なので……消去法ですかね。文章以外で記録するって考えると、映画を撮るか、絵を描くしか思いつかなくて。そのなかで、それとモノローグを多く使えるものとなると限られるなって。
――でも、授業に出ないほど絵が嫌いだったのでは……?
町村 いえ、絵が嫌いなわけじゃなくて……恨み節じゃないですけど、小学校の図工の先生が厳しくて。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」をみんなで描こうってなったんですが、「おまえの描く絵はダメだ!」って、休み時間になるまで言われたりとか。今思えば、なんか先生なりに感じて厳しく言ってくれたのかもしれないけど、一生懸命やった絵なのにそんなこと言われて、心が折れたんですよ(笑)。
――それは……(苦笑)。
町村 もともと絵を描くのは好きだったんですよ。だけど、そこまで言われるんだったら、これは才能がないんだろうって思って。そんなに特徴的な絵ではなかったと思うんですけどね。ただ大人になって時間も経ったし、日常を記録するために、久しぶりに絵を描いてみるかなって。本当、軽い気持ちで。