マンガを「あきらめる」ために応募、ところが……
――『このマンガがすごい!』大賞に応募された際は、賞をとる自信はおありでしたか?
町村 いや、もう全然そんな気はなくて……。なんというか、自分のなかできっぱりあきらめるために、箸にも棒にもかからないことを理解してやめたかったんですよ。だから、『このマンガがすごい!』大賞って、「同人誌でもいい」とか……こう言ったらなんですけど、すごく気軽に応募できたんですよね(笑)。
――「このマンガがすごい!」の賞だから、もう評価が定まっているような作品じゃなくて、「可能性」に重点を置いているんです。町村さんの作品が、その点に大きく引っかかったなっていうのはあると思います。審査員のみなさんも編集部も、「この人でやったらおもしろくなるんじゃないか」って、すごく盛り上がりましたから。ハードル高くてたいへんだけど、最終的には描き下ろしの単行本化を目指すのも同じ理由です。偉そうなことを言えば、「可能性を世に問う」っていう。
町村 なので、まさか優秀賞をもらえるなんて。
――その、まさかの最優秀賞の連絡がきたときは、どうでした?
町村 応募してから電話がくるまで、けっこう間が空いたじゃないですか。だから私は完全に、(応募作が)届いたその日に、表紙の一枚だけ見て、すぐに捨てられたと思ったんです。
――捨てる!? そんなことしないですよ(笑)。
町村 でもほら、よく聞くじゃないですか。編集さんは表紙でだいたいの内容が判断できるから、「チラッと見てポイッ」みたいな感じ……なのかなと思ってましたけど。
――そんなことないですよ。でも、たしか町村さんは第5回の締め切り日の、かなり前に応募されていて、1年間くらいお待たせしていたんですよね。
町村 そうなんです。だから「ファッ!?」ってなりましたよ。その頃はもう結婚して、新生活をスタートしてて(笑)。宝島社さんから電話がかかってきた日に、スーパーで買い物していたんですけど、その時のレシートをまだ持っていて。(2014年の)7月14日なんですよ。あぁ……あのときは暇だったなぁ。
――それから怒涛の忙しい日々になってしまうわけですよね。
町村 そうですね、突然降ってわいたように。
――電話で受賞の連絡を受けて、実際に宝島社で最初の打ち合わせをしたときは、どうでしたか。
町村 最初はずっと「騙されてる!」って思っていました(笑)。編集部に呼びだして、からかわれるのかな?って。社会人は、そんな暇じゃないよって旦那には言われましたけど(笑)。だから最初、すごく不審感丸出しの対応をしてて……。この場を借りて編集長さんにお詫びします。
――「なんかおびえた小動物みたいだった」って言ってましたよ。「怖くないよー」って(笑)。
そこで、いきなり「単行本化するから、もうひとつ新しい話を描いてみませんか?」ってお願いされたときは、どう思いましたか。
町村 いえ、応募したもうひとつの中編では、どうしようもなかったと自分でも感じたので、そのほうがいいと思いました。自分でも突っ込みどころ満載で……。でも、描き下ろし作業に入る前は、「はあ、とりあえずやってみます」みたいな、現実味はない感じでしたね。
コンプレックスのごまかしが評価された!?
――初めてスケジュールに追われながら、ラフやネーム、ペン入れ、表紙イラストの作成といった作業をされたと思うんですが、どうでした?
町村 昼間は会社員で、夜に執筆しという……おすすめしません。死にます!(笑)
――死ななくてよかったです(笑)。実際に単行本化されたものを自分で見て、どう思いましたか?
町村 中身に関しては、やっぱり下手だなぁと自分では……。
――審査員の方は、絵に独特の雰囲気があってすばらしいとおっしゃっていましたし、絵でみせる構図についても絶賛していました。実際、単行本化されたものを見ても、とても魅力的だと思うんです。
町村 なんというか、今まで人の目を想像してなかったので、なんの恥じらいもなく踊っていたわけですよ。それが突然幕が開いて他人に見られてしまった、みたいな。
――単行本は表題作と「かぜきり団地」、2本の中編で構成されているわけですが、ミニシアターなんかで、2本立ての映画を観ているような、「観た!」っていう気持ちになるんですよね。なぜそういう気分にさせられるかと考えてみると、場面の切り替えの構図の美しさに力があるんじゃないかなと思うんですよ。
町村 どうなんですかね。自分では、間の取り方がヘタだと思ってるんですよ。ヘタだから、小物を入れて誤魔化すんです。調整コマじゃないですけど……。自分のなかでは、間の取り方はコンプレックスだったので、そこが審査員のみなさんの目に止まったと聞いて、ちょっと意外でして。
――町村さんの作品は、説明セリフだけでなく、普通のセリフも少ないんです。なのに、セリフがなくても、画面だけで説明できてしまう。場面の切り替えや、構図のうまさ、それからご自身が「調整コマ」とおっしゃっている、間のとり方で。町村さんのマンガは、独特のリズムに魅力があると思うんですよね。
町村 ただ、正直言うと間を取ろうと調整のために入れるコマって、小物とか、描くのがたいへんで、引きの構図とかも難しくて……なるべく描かないようにしたいと思ってるんですけど(笑)。
これから応募する人は…
――12月10日には全国の書店に並ぶわけですが、どういう人に手にとってほしいですか?
町村 つまらない答えになっちゃいますけど、できるだけいろいろな人に。いろんな考え方を持った人たちが、どう自分の話をとらえてくれるのかっていうのは楽しみなので。
――この記事を読んでいる人たちのなかには、町村さんと同じように今後『このマンガがすごい!』大賞に応募しようと思っている方も多いと思うのですが、今回実際に応募をしてみて、アドバイスなどはありますか?
町村 自分がヘタだって自覚があったとしても、描きたいことがあるんだったら、完成させて応募したほうがいいと思います。ただ、編集さんから単行本用の描き下ろし作業を頼まれた時は……覚悟してください(笑)。
次回、このような製作過程を経て生まれた大賞作『フォーカス&コントラスト』の気になる内容を直撃!
取材・構成:編集部 構成協力:山田幸彦