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『逢沢りく』(ほしよりこ)ロングレビュー! “カンペキな家庭”に生まれた美少女が“生きること”に向きあう

2014/12/17


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『逢沢りく』上巻
ほしよりこ 文藝春秋 \1,000+税
(2014年10月26日発売)


鉛筆による独特なタッチで猫の家政婦の活躍を描く、というファンタジックにして生活感あふれる『きょうの猫村さん』で大人気を博したほしよりこ。『逢沢りく』は、その作者による新作長編だ。

主人公は14歳の美少女・逢沢りく。彼女は感情と関係なく必要と思えば涙を流すことができる。美しいりくが泣く姿は人の心を動かすが、彼女自身の心はいつも冷めていた……。

作者の特徴であるやわらかい描線で描かれた本作は、これがある種の寓話だと思わせる。だが同時に、甘いだけのおとぎ話にならず鋭い現代性も含んでいるのが特徴だ。
特にそれを感じさせるのが、りくの両親の描写だ。りくの大好きなおしゃれなパパは、会社の若い女性と浮気をしていて、それを知っている鋭いりくは「ママがしてほしいこと」を感じ取って不穏な行動をとってしまう。表面的には過剰なくらい仲がよいりくの両親は、重要な問題をうすうす自覚しつつも向きあわないので、逢沢家はママの作るお弁当のように「カンペキ」「でもなんか変」なのだ。

関西の大おばが送ってきた手作りのおかずや衣類を、ママはりくに触れさせようとすらしない。

関西の大おばが送ってきた手作りのおかずや衣類を、ママはりくに触れさせようとすらしない。


りくのママは、オシャレな料理を作り、身のまわりのもののセンスにもこだわる。一見「正しさ」に満ち、ステキに見える逢沢家。だが、母親に「動物なんて、バイ菌の温床」と言われ続けて育ったりくは「かわいい」や「悲しい」という感情がわからず、ときに世の中すべてを「バイ菌だらけ」と拒絶する少女に成長している。オシャレで安全な「良いもの」だけにふれて育ってほしい、という親心も、行きすぎれば排他的な独善になってしまうことまで本作では描かれる。

単行本情報

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