『エシカルンテ』第1巻
森和美 講談社 \590+税
(2015年1月23日発売)
「イブニング」新鋭の初連載、単行本第1巻。
戦後すぐ、北海道に越してきた少女・千鶴。ある理由から声を失った彼女は、その地で不思議な雰囲気を持つ静子と出会う――。
とにかく、北海道、開拓、アイヌ、夢、精霊……といったモチーフだけで、個人的にはそそられずにいられないのだが、なによりすばらしいのが、人間のみならず馬や鳥といった動物や森の木や植物や川や風……といった森羅万象の営みをいきいきと描きだす、著者の独創的かつ大らかな眼差し。
なかでも千鶴が森の歌を聴き、森ととけあうシーンの描写。そのファンタジックな情感と骨太なダイナミズムは、ジブリアニメなんかを引き合いに出したくなる感じで、現在のマンガシーンにおいては稀有な魅力を放っている。
ちょっと古くさいようなかわいい、いなたい絵柄も、この世界観に絶妙にマッチしていて、むしろ新鮮に感じられるからおもしろい。
ちなみに著者の旦那様は、昨年大反響を巻き起こした闘病ドキュメンタリー『さよならタマちゃん』の武田一義。
『さよならタマちゃん』を既読の人なら、あの奥様がこのマンガを……と感慨深く思うと同時に、なるほど、あの人なら……と妙に腑に落ちてしまうはず。
とにもかくにも、物語はまだ序盤だけに、今後の展開が楽しみでしょうがない。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」 (京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン『上村一夫 愛の世界』編集発行。
Twitter:@superpop69