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『新装版 アカシアの道』 近藤ようこ 【日刊マンガガイド】

2015/02/14


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『新装版 アカシアの道』
近藤ようこ 青林工藝舎 \1,000+税
(2015年1月30日発売)


近藤ようこ、1995年の名作が、このたび新装版で復刊。

教師であるシングルマザーの母親に支配されて育った美沙子。東京で自立し、ようやく逃れられたと思った矢先、母親がアルツハイマーを発症。
美沙子はやむなく地元に帰り、再び母親と暮らし始める――。

今の時代、介護の問題はだれもがひとごとではないわけで。肉親介護ならではの閉塞感に主人公が次第に追いつめられてゆく姿には、見ないフリをしていた現実をこれでもかと突きつけられる思い。
しかし、それだけでは終わらないのが本作のすごみ。近藤ようこは壮絶な肉親介護を通して、介護以前から脈々と存在していた母娘の確執をじわじわとあぶり出してゆく。

ずっと確執を抱えながらも距離を置くことで問題を回避していた親子が、介護をきっかけに再び確執を深めるというケースは、実際よくあることのようだが、「母がしかたなくわたしを育てたように わたしもしかたなく母の世話をするのだろうか いつまで――」といったセリフには、あまりの問題の根深さに、頭がクラクラ。
そんな母娘問題のアレコレについては、本作もテキストとして紹介されていた斎藤環『母は娘の人生を支配する』に詳しいので略するが、ここでは「母親の日常のなにげない言動がいかに娘を傷つけるか」といった例が、じつにリアルにデリケートに描かれていて、一児の母としては読みながら思わずゾッとしてしまいましたよ……。

虐待に限らず、過去に深い傷を負った人間が、負の連鎖を断ち切り、絶望や憎しみを克服して生きてゆくのは、決してたやすいことではない。
だからこそ、「無理でも変えなきゃいけないのよ 親のためじゃなく自分のために――」というラストの主人公の言葉には、光のようなものを感じずにいられない。

かなり重い話ではあるが、読後感は不思議に明るい。
なにか出口が見えなくなった時、手にしたい一冊だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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