『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』第2巻
草水敏(原)恵三朗(画) 講談社 \600+税
(2015年2月23日発売)
とある大病院に彼はいる。岸京一郎。彼が就いている「病理医」という職は、一般の患者に面談することはほとんどなく、採取された細胞などを顕微鏡で観察して診断を行うもの。
もっとも、本作を読むにあたってそのような医学の知識はまったく必要とされない。
岸は、診断のために必要な証拠を求め、納得のいかないことについては断固として譲らない。そのため、院内では畏怖されてはいるものの、同時に非常に厄介な存在としても扱われてしまっている。
そうはいっても、彼の診断は彼が絶対の自信を持つに足るだけの証拠がそろっているため、いわば『水戸黄門』の印籠がもたらすような、正義の雰囲気が物語には漂う。
あるいは『SHERLOCK/シャーロック』のように、主人公の人格や協調性には問題こそあるものの、事件が解決するのだから誰も逆らえない、というような、ちょっと歪んだ快感がある。
作品名にもなっている岸がシャーロックだとすると、本作におけるワトソン役は2人いる。ひとり目は彼のサポートをする臨床検査技師の森井。もうひとりは、岸の絶対的な正義に憧れ病理医見習いとなった宮崎。
この2人が岸のような絶対的な正義を体現できない弱さを見せることで、作品に厚みが生まれてくる。
本作は題材こそ医療がとられているが、実際は他人の人生を左右する医療現場という極限状況のすぐかたわらで繰り広げられる、登場人物たちの人間ドラマのほうに主眼があると言って間違いないだろう。
岸の強烈なキャラクターはもちろん、森井や宮崎の絶妙な弱さと、そのみずからの弱さに負けない気持ちの強さ、そしてさらに彼らをとりまく脇役たちのキャラの立ちっぷりもすばらしい。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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