『仁義なき吉田家』第1巻
江戸川治 集英社 \400+税
(2015年3月4日発売)
敬愛する組長を乗せて、車を走らせていた集英組の若頭・鬼島。
しかしその際に敵対する神保組の襲撃を受けて、鬼島と組長は命を落としてしまう。
一方、その鬼島と組長の車にひかれるかたちとなってしまった、いじめられっ子の小学生・吉田守と、弟でまだ赤ん坊の未来。ふたりは病院で無事に目を覚ますが、なぜか自分たちの姿にとまどうばかり。
なんと守と未来の身体に、それぞれ鬼島と組長の魂が入ってしまっていたのだ……!!
これが著者の初連載作で初単行本となる、江戸川治『仁義なき吉田家』は、ヤクザの魂が宿った小学生の物語だ。
この場合、ヤクザの魂には2つの意味があって、小学生と赤ん坊に文字どおり「ヤクザ稼業の人間の魂」が宿ってしまったというのに加えて、「義侠魂」が宿ったという意味もある。
死んだ鬼島、そして組長は、筋の通った義理人情に篤いヤクザ。また鬼島は、組長をオヤジと慕い、子分たちをかわいい弟と世話してきていて、彼にとって集英組は大切な家族でもあった。
一方、2人の魂が宿った、守と未来の吉田家。リストラされてから酒浸りの父、新興宗教にはまった母、学校も行かずに男遊びを繰り返す姉と、家庭崩壊寸前だ。
しかも守はいじめもあって、自殺を考えていたらしい。車に飛びこんだのもそのためだ。
守と未来の代わりに、吉田家の人間として真っ当に生きる決意を固めた鬼島と組長。
2人は持ち前の知恵と機転、そして義侠魂で、吉田家、さらには守をいじめていた周囲の子どもたちも再生させていくことになる。
人の道に外れたことが多い現代社会における、道を踏み外したはずのヤクザの義侠魂による世直し。
マンガではよくあるモチーフかもしれないが、その姿は小学生ということで、痛快さは倍増だ。姉のイナセに正体がバレそうになるという展開もあるものの、設定だけによっていないのが本作の魅力。守=鬼島の言葉の一つひとつ、行動の一つひとつに重みや深みがあって、作者のドラマ作り、人間の描き方の確かさで読ませてくれる。
そう、設定のおもしろさもありつつ、本作は真っ当な家族マンガで人間ドラマなのだ。しかもその感動や泣きは熱くも押しつけがましくなくて、適度なスカしやオチがつくのも、それこそ任侠の美学さながらかもしれない。
人とエピソードで、読ませる。設定や見た目は変化球でも、直球勝負の作品だ。
ちなみに、小学生の姿になった主人公が活躍する話と言われると、浮かんでくるのは青山剛昌『名探偵コナン』の江戸川コナン。「江戸川治」という本作著者のペンネームは、江戸川はそれこそ江戸川乱歩から、治は手塚治虫から取ったとのこと。
次巻が完結となる本作だが、その落としどころと同様に、作者の今後にも、さらに期待だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。