『三代目薬屋久兵衛』第1巻
ねむようこ 祥伝社 \900+税
（2015年3月7日発売）

祖父の営む古めかしい漢方薬局「薬屋久兵衛」を継ぐため、地元に帰ってきた25歳の三久。
漢方についての知識はまだまだだけれど、幼い頃から好きだった店をつぶしたくない一心で、修行に励む毎日だ。

彼女が地元に戻ってきたのは、中学時代の初恋の相手と交わした約束が忘れられないためでもある。
しかし、そんなおり、植物好きの超人見知り青年・カナエに出会い、心ひかれて……。

一見どこにでもある田舎町のようで、なんだかフシギなモノがちょいちょい姿を現す町のムードが幻想的で、まどろむような心地よさにいざなってくれる。
空はどこまでも高い。照りつける夏の太陽も、木々の葉の間から仰ぐ満月も……一つひとつが土地の空気感を雄弁に物語る。

地域に伝わる“森に住む魔女”のナゾや、登場人物たちの抱えるヒミツはどのように結びあっているのか。心と身体をやさしく癒す漢方の世界を通奏低音に、三久の恋物語はどこに向かうのか。
三久の帰郷以前の過去が明かされていくのも、これからの見どころだ。ノスタルジックな雰囲気をたたえながら、やすやすとまったりはさせてくれなさそう!?

人の心と肉体性とをより合わせながら紡ぐ、独創的な物語の行く先を見守っていきたい。

＜文・粟生こずえ＞
雑食系編集者＆ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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