『ほしのこえ』
新海誠(作)佐原ミズ(画) 講談社 \648+税
1807年の3月29日。ドイツのブレーメンで、太陽系4番目の小惑星ベスタが発見された。
セレス(ケレス)、パラス、ジュノーと並んで、四大小惑星のひとつである。
さてこのベスタ、天文ファン以外にも、占星術に興味がある人にはなじみのある存在だ。
ホロスコープに使用するのは主に太陽や月などの10天体だが、それ以外にも使われている天体や感受点があり、それぞれに固有の意味を持っている。
この四大小惑星もそうだ。セレスは献身、ジュノーは権利、パラスは純粋な愛情と調和。そしてベスタは義務・犠牲、奉仕の愛情。
ベスタの意味に、『ほしのこえ』のキャラクター、特にヒロインの美加子は見事に重なる。
西暦2046年。寺尾昇と長峰美加子は、同じ高校へ行きたいと考えていた中学3年生。だが美加子は、国連宇宙軍のタルシアン・プロジェクトに選抜され、宇宙へ行ってしまった――。
昇と美加子の連絡手段は携帯のメールだ。
火星のころは週に数通届いていたメールが、木星のエウロパ基地、そして徐々に遠ざかり冥王星――そのころにはどんどんメールの間隔が開くようになる。
まず、美加子の中にあるベスタを見てみよう。
美加子は宇宙軍での義務を懸命にはたす。十代の多感な時期を戦いに費やす彼女は、自己犠牲的存在でもある。
そしていつ届くか知れないメールを送り続け、ただ昇を想い続ける、奉仕の愛情の持ち主だ。
一方の昇は、メールを待つことをやめ、高校生活を続け、ガールフレンドもできた。
しかしある日、忘れかけていた頃に美加子からのメール着信があった。そのメールには、これから先はメールの間隔が8年7ヵ月にもなると記されていた。
「帰りたい」「ノボルくんに会いたい」と綴られたメール。美加子がなにもあきらめていなかったことに、昇は気づくのだ。
そして、昇が選んだ道は――。
占星術の話に戻ると、ベスタはまた、「魂の純粋さを保つために何が必要か」を教えてくれる天体。
まちがいなく言えることは、美加子だけでなく昇も、純粋な魂の持ち主だ。その純粋さを保つために必要なのは、お互いをただ想う気持ち、それを貫くこと――。
このせつなくもピュアな愛の物語を、佐原ミズは独特な、繊細かつリリカルなタッチで描き出す。
水彩画を思わせる絵柄が醸し出すその世界に、胸を打たれる方も多いはず。ぜひご一読のほど。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」