国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は5/19~6/17)
「このマンガがすごい!」横スクロールマンガ部門で第1位に輝いた『鳥獣戯画』。「動物の擬人化」という斬新な発想から生まれた超大作の魅力に迫る。
ベストセラーであるかの大作『源氏物語』のコミカライズから「応天門の変」のような実際にあった事件のドキュメンタリー『伴大納言絵巻』に至るまで、じつに様々な展開をしてきたマンガカルチャーの最高峰「絵巻物」。
そもそも、経典の説話をイラスト化して掲載した「絵因果経」以来、絵巻物は「このマンガがすごい!」の読者なら当然、触れたことがないという人などいない人気ジャンル。
知ってのとおり、平安京では紫式部の『源氏物語』を絵物語にした『源氏物語絵巻』が、手に入らなくて取り合いが起こるほどの大ブレイクだ。
しかし昨今は、横スクロールという表現手段の限界や取りあげる題材のマンネリ化も指摘され、一部の過激な絵巻物ファンの間では、「絵巻物終末論」まで叫ばれているという。
そんな閉塞感が漂いつつある日本の絵巻物界に、日本マンガ史をひっくり返すような超話題作が登場した。その著者の正体は鳥羽僧正だとする声もちらほら聞かれるが、なんにせよ、従来の絵巻物スタイルを忠実に守りながらも、読む者に強烈なインパクトを与える作者の作劇方法は、従来にない。
今回リリースされた『鳥獣人物戯画』(以後『鳥獣戯画』と略)は甲・乙・丙・丁の前4巻から構成される長編大作だ。
巻緒(ひも)を解いて真っ先に目に飛びこんでくるのは、巻物いっぱいに広がる川。
そのなかで水浴びをしているのは……なんとサルである。さらに水辺の岩場からは、ウサギが華麗なダイビングを見せている。
サルと水との取りあわせ、言葉を恐れずに言えばアンバランスさに面食らう読者も多いと思う。
しかしながら中国の「五行思想」にもとづく陰陽道的側面からは、サルと水は親和性を持つということが知られている。それを巧みに絵に織りこむとは、さっそく我々は作者の広い見識に驚かされる!
つけ加えるならば、蝦夷地や豊後国など日本各地の温泉地でも同じような光景=温泉につかるサルの姿を見かけるはず。
国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は4/28~5/17)
むしろここで論じられるべきはウサギのほうだろう。
このウサギはひしゃくでサルに水をかけ、なんとシカに騎乗するのだ。
あまりにも人間的な、いや、ディズニーキャラクター的なとすら言える、そのアクションに驚きを感じつつも読み進めていくと、ウサギがにわかに本書の主人公的ポジションにシフトしていくさまを目撃する……。