このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

【エイプリルフール企画】『鳥獣戯画』ロングレビュー! 都に一大旋風を巻き起こしている絵巻物界の超新星が描くのは、カエルにウサギ!?  斬新な動物の擬人化マンガスタイルに注目!

2015/04/01


甲の巻、中盤を過ぎたあたりから物語は突然サスペンスタッチに。被害者とおぼしきカエルの周囲で、当局と思しきグループの捜査活動が忙しく立ちまわり、野次馬も集まる。それよりも気になるのが画面中央下段、ウサギの足元から様子をうかがうネズミだ。その視線の先には……烏帽子姿のネコ! 新たなる悲劇の予感がする……。

甲の巻、中盤を過ぎたあたりから物語は突然サスペンスタッチに。被害者とおぼしきカエルの周囲で、当局と思しきグループの捜査活動が忙しく立ちまわり、野次馬も集まる。それよりも気になるのが画面中央下段、ウサギの足元から様子をうかがうネズミだ。その視線の先には……烏帽子姿のネコ! 新たなる悲劇の予感がする……。

国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は5/19~6/17)

同じく甲の巻、中盤では本作きってのサブキャラクター・カエルが登場する。
カエルは当初、ウサギのライバルキャラとして登場、賭弓競技などで競うことになる。
これはややうがった見方かもしれないが、ウサギもカエルも“跳ねる動物”というイメージから競争相手として設定されたとも考えられる。

「大きさが違いすぎる」との反論もまったく予想の範囲内。
“カエルがウサギの大きさだった場合の跳躍力は?”という、『テラフォーマーズ』でも披露された思考実験がここにも展開している。
ここには「カエルがウサギと同じ大きさでもいいじゃないか」という自由奔放なイマジネーションを堪能するぐらいの度量が、読者にも要求されるのだ。

甲の巻のクライマックスでは、ついにカエルとウサギの最終決戦が。
決着をつける競技は、かつてその年の豊作を占う農耕儀礼として発生し、成長過程で厳格な様式を持った格闘技となった「相撲」である。
「いくさのような戦争行為ではなく、あえて平和的な相撲で決着を付けましょうよ」と作者がカエルとウサギに託したメッセージは、最近台頭してきた「武士」とかいう野蛮な下層階級への痛烈な批判にも受け取れて、じつに痛快。

きっとこれだけで900年ぐらいは語り継がれるであろう、本作最高の一コマ。ただし、コマといっても絵巻物は一巻まるごと連続して描かれているため、厳密に言えばこれは一コマの“一部分”。

きっとこれだけで900年ぐらいは語り継がれるであろう、本作最高の一コマ。ただし、コマといっても絵巻物は一巻まるごと連続して描かれているため、厳密に言えばこれは一コマの“一部分”。

国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は5/19~6/17)

なお、作中でカエルがウサギに「外掛け」をしかける描写があるが、上半身に目を移すとカエルがウサギの耳に噛みついており、これは禁じ手にあたるため、カエルは反則負けとなる。
一方、もう一つの取り組みではカエルはみごとにウサギを投げ飛ばし、堂々の勝ちをおさめている。
これで一勝一敗。両者はあくまでも互角なのである。

かくして、甲の巻ひとつとっても、作者の秀逸な発想力と卓抜した画力を知っていただけたのではないだろうか。
次回では、「ウシやイヌが出て来るけれど人間ぽくない」、「獅子や獏のような架空の生物が登場する」など、リリース直後から賛否両論が巻き起こったという問題作「乙の巻」について論じてみたい。

著者(という説がある人):鳥羽僧正

このたびは、私が描いたと世間で言われている(最近では、そんなことはないとも言われてしまっているのですが……泣)『鳥獣戯画』を取り上げていただきありがとうございます。
約800年の時を越えて、現代を生きるみなさまに親しんでいただけたらとてもうれしいです。
4月28日から東京博物館にて、展覧会も開催されるので、ぜひ遊びにきてください。

展覧会情報:特別展「鳥獣戯画-京都 高野山の至宝-」

開催期間:2015年4月28日(火)~6月7日(日)
※『鳥獣人物戯画』については、全4巻の各前半部分が前期、後半部分が後期に展示されます。
前期:4/28~5/17、後期:5/19~6/7
開催場所:東京国立博物館 平成館(上野公園)
開催時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
URL:http://chojugiga2015.jp/



というわけで、今回は「エイプリルフール特別企画」として、『鳥獣戯画』のロングレビューを更新しました!
マンガ好きのみなさん、楽しんでいただけましたでしょうか?
この記事の何が本当で、何が「嘘」なのか、展覧会へ足を運んでご自分の目でおたしかめください。



<文・富士宮大夫(ふじのみやのたいふ)>
絵巻物評論の急先鋒として様々なメディアで論陣を張る新進気鋭の平安貴族。おもな著書に「『鳥獣戯画』はいかにして超獣・ギーガーへ進化したか ~ヤプール/エイリアン比較研究~』ほか。
ブログ:「遺産の処分は腕力で決めるべし」

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング