国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は5/19~6/17)
同じく甲の巻、中盤では本作きってのサブキャラクター・カエルが登場する。
カエルは当初、ウサギのライバルキャラとして登場、賭弓競技などで競うことになる。
これはややうがった見方かもしれないが、ウサギもカエルも“跳ねる動物”というイメージから競争相手として設定されたとも考えられる。
「大きさが違いすぎる」との反論もまったく予想の範囲内。
“カエルがウサギの大きさだった場合の跳躍力は?”という、『テラフォーマーズ』でも披露された思考実験がここにも展開している。
ここには「カエルがウサギと同じ大きさでもいいじゃないか」という自由奔放なイマジネーションを堪能するぐらいの度量が、読者にも要求されるのだ。
甲の巻のクライマックスでは、ついにカエルとウサギの最終決戦が。
決着をつける競技は、かつてその年の豊作を占う農耕儀礼として発生し、成長過程で厳格な様式を持った格闘技となった「相撲」である。
「いくさのような戦争行為ではなく、あえて平和的な相撲で決着を付けましょうよ」と作者がカエルとウサギに託したメッセージは、最近台頭してきた「武士」とかいう野蛮な下層階級への痛烈な批判にも受け取れて、じつに痛快。
国宝『鳥獣人物戯画』甲巻(部分)
平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
(※東京国立博物館での展示期間は5/19~6/17)
なお、作中でカエルがウサギに「外掛け」をしかける描写があるが、上半身に目を移すとカエルがウサギの耳に噛みついており、これは禁じ手にあたるため、カエルは反則負けとなる。
一方、もう一つの取り組みではカエルはみごとにウサギを投げ飛ばし、堂々の勝ちをおさめている。
これで一勝一敗。両者はあくまでも互角なのである。
かくして、甲の巻ひとつとっても、作者の秀逸な発想力と卓抜した画力を知っていただけたのではないだろうか。
次回では、「ウシやイヌが出て来るけれど人間ぽくない」、「獅子や獏のような架空の生物が登場する」など、リリース直後から賛否両論が巻き起こったという問題作「乙の巻」について論じてみたい。
というわけで、今回は「エイプリルフール特別企画」として、『鳥獣戯画』のロングレビューを更新しました!
マンガ好きのみなさん、楽しんでいただけましたでしょうか?
この記事の何が本当で、何が「嘘」なのか、展覧会へ足を運んでご自分の目でおたしかめください。
<文・富士宮大夫(ふじのみやのたいふ)>
絵巻物評論の急先鋒として様々なメディアで論陣を張る新進気鋭の平安貴族。おもな著書に「『鳥獣戯画』はいかにして超獣・ギーガーへ進化したか ~ヤプール/エイリアン比較研究~』ほか。
ブログ:「遺産の処分は腕力で決めるべし」