『HELLSING ヘルシング』第4巻
平野耕太 少年画報社 \495+税
現在、日本において結社、表現、思想の自由は日本国憲法において認められている。
したがって、公衆の目前で自分の主義・主張を話す「演説」も(常識の範囲内で)可能である。私有地においても相応の許可を取れば演説が可能である。
英語の「スピーチ」を「演説」と訳したのは、かの慶応義塾創始者・福沢諭吉。
きたるべき議会政治に向けて口頭で意見を述べ、議論することの必要性をイチ早く予見した福沢翁は、塾生を集めて演説・討論のトレーニングを学ぶ勉強会「三田演説会」を組織した。
1874(明治7)年の6月27日は、この三田演説会で日本初の演説会が行われたことを記念して「演説の日」となった。
マンガで演説、といえばほぼ真っ先にあげられると思われるマンガ史上もっとも有名な演説が誕生したのは『HELLSING』という作品。
20世紀末のイギリスを舞台に、大英帝国の王立国教騎士団、通称「ヘルシング機関」に所属するアーカード、インテグラ、セラスの3人を中心に展開する吸血鬼対吸血鬼ハンターの戦いを描くバトルアクション大作。最強の吸血鬼・アーカードが、主であるヘルシング家当主・インテグラ、眷属となった吸血鬼・セラス(もと婦警)とともに吸血鬼狩りに生きるハードな生き様や、ヘルシング機関を異端としてつけ狙うヴァチカン法王庁特務局第13課、通称「イスカリオテ機関」との確執そして共闘など、全10巻を通して息をもつかせぬ展開でファンを魅了している。
くだんの演説は単行本第4巻で、本作の最終的な敵となるナチス残党が結成した組織「ミレニアム」の指揮官“少佐”が発したもの。
「諸君 私は戦争が好きだ 諸君 私は戦争が好きだ 諸君 私は戦争が大好きだ」
印象的なツカミで始まるこの演説は、エピソード1本をほぼ丸ごと使って、テキスト量にして1200文字以上で少佐ひとりの戦争観と次なる作戦指令をとうとうと語る。
その全文はもちろん本作をお読みいただくとして。
一読した方はとにかくその物量と決して冗長にならないレトリックに圧倒されるはず。「戦争がやりたい!」というシンプルな思考をこれほどまで感動的な演説にした少佐は、かつて演説でドイツ国民の心を掌握してのけたあのチョビヒゲをほうふつとさせる。
「諸君 私は○○が好きだ」の○○部分を「エロゲ」や「UNIX」「平野耕太」に置き換えたおなじみのコピペやネットスラング「よろしい、ならば戦争(クリーク)だ」を派生させた少佐の演説。
今日はぜひ元ネタを知っておいてほしい。
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。