『鍵のない鳥籠』
冬織透真 小学館 \429+税
(2015年5月26日発売)
長い髪をきっちりと2つに結わえて眼鏡をかけ、成績は学年一番、生徒会役員。
新川波瑠(しんかわ・はる)はいつも笑顔、まじめでいい子。絵に描いたような優等生。
でも彼女は気がついてしまった。
家でも学校でも、本当に自分を受けいれてくれる場所など、どこにもないことを。
それに気づかせてくれたのは、生徒会担当の生物教師、榊灯護(さかき・とうご)。
「僕だけは君の味方でいるから」
そうささやき髪を撫で、抱きしめてくれた人だった。
波瑠は、自分が灯護の特別になりたいと感じていることに気がつき始める。
教師と生徒、秘密の関係が深まっていく。自分が悪い子になることに興奮し、どんどん灯護に心惹かれていく波瑠。
でも灯護はある日、波瑠のかわりなどいくらでもいるといい放った。
衝撃を受ける波瑠。はたして灯護の本心は――?
一見ダークな雰囲気が濃いが、じつはこの作品、本質的には強い愛の物語だと感じる。
主人公・波瑠が情熱的な性格で、とても芯の強い少女なのが一番の理由だろう。
深い闇を抱えているのは灯護で、しかしその真実は明らかにならないまま、この話は一応の完結を見せている。
鳥籠の鍵はかかっていない。
籠のなかに、すなわち灯護の所に留まることを選ぶのも、去ることを選ぶのも、波瑠次第だ。
つまり能動的なのは波瑠であって、灯護は自分を受け身の立場に置いている。
2人の関係は灯護から仕掛けて始まったが、それは「ゲーム」だと彼は言う。
では、彼の本気は? 彼が本心を示して、行動することはあるのだろうか?
それはきっと、灯護が自分のなかにどれほどの暗闇を持っているか、本当の意味で気づいた時から始まるのだろう。
いっぽう、波瑠は本気で灯護を想っている。常に、彼の闇を照らそうとしている。
いずれどこかで、彼女の力をもって、灯護の持つ傷が本当に癒されるストーリーが描かれることを期待してやまない。
とシリアスに締めてみたところで、ひとつ大事なことを忘れていました。
この榊灯護という男、コノハズクの小太郎と常に行動をともにしていて、授業でさえ白衣の肩に小太郎がいるくらい。
著者が猛禽類に愛を注いでいるらしく、じつにいろいろな生態を描いているが、あちこちにいる小太郎に注目して読んでいくと、ほんとかわいいですよ。和み兼癒しキャラ。
闇のなかでも目が見える「森の賢者」たる小太郎が、波瑠とともに灯護を照らし続けてくれることを祈りつつ。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」