『放課後ミンコフスキー』第1巻
青柳碧人(作) 帯屋ミドリ(画) 講談社 \565+税
110年前(1905年)の6月30日、スイス連邦特許局の技師だったアルベルト・アインシュタインが、相対性理論に関する最初の論文をドイツの物理雑誌「アナーレン・デア・フィジーク」に提出した。
相対性理論のデビューとなったこの日は、アインシュタイン記念日に制定されている。
てなわけで、「きょうのマンガ」に選出したのは『放課後ミンコフスキー』。
「あれ? 『放課後アインシュタイン』じゃないの? つか、ミンコフスキーって誰?」という諸兄、ちょっと落ち着いて!
ドイツ人数学者のヘルマン・ミンコフスキーはアインシュタインの特殊相対性理論に数学的基礎を与えたすごい人。
そもそも彼のスイス連邦工科大学準教授時代の教え子に、ヤング・アインシュタインがいたのだ(ミンコフスキーのほうが15歳年上)。
ミンコフスキーは、アインシュタインが発表した特殊相対性理論が「時間の次元と空間の3つの次元をひとつに組み合わせた、四次元の時空を用いることで簡素に記述される」ことを発見。この時空は一般的に「ミンコフスキー空間」と呼ばれている。
はい、ここまで読んで「なんのこっちゃ!?」と思ったアナタ、アナタにこそ『放課後ミンコフスキー』を手にとっていただきたい!
主人公は高校進学を目前に控えてウキウキしていた中学3年生の亜子。ところが彼女は仲よしの友人たちと缶ケリに興じているうちに、ひょんなことから4年後にタイムスリップ。
あれこれと夢想していたJK生活が一瞬で消え去ってしまったのだ。
父親の実家がある愛媛に引っ越し、19歳ながら高校生活をスタートさせた亜子だが、そこには仲よしの友人たちがいるはずもなく、自暴自棄になる日々。
しかしクラスメイトの物理オタク少女と出会ったことで、思わぬ展開が待ち受ける。
この物理オタク少女・間由里は「ミンコフスキー空間」について考えることが大好物。間由里は「理論的に過去へタイムスリップすることは可能」だと説き、「過去に帰りたい!」と強く願う亜子に一筋の光が見え始める。
この2人に能天気なアイドル志望の少女・空美を加えた3人は、本気でタイムスリップを実行しようと団結。
タイムスリップの媒介となっているミカンジュースのルーツ、亜子と同様に忽然と姿を消した先輩・戸村雅一の行方など、さまざまな謎を追っていく。
小難しいことは要所要所で(間由里が)かみくだいて説明してくれるので、相対性理論門外漢の読者も案ずることなかれ。
「速く運動するほど時間は遅く進む」「時間の進みはいろんなところで伸び縮みしている」「真空において光の速さは変わらない」……。相対性理論やミンコフスキー空間を通してタイムスリップが絵空事ではないことがわかってくればくるほど、世界観にズブズブと入りこんでしまうはずだ。
原作は『浜村渚の計算ノート』シリーズで知られる青柳碧人。
その青柳が、ちばてつや賞準大賞を受賞したばかりの新人・帯屋ミドリとタッグを組んだ点もキモだ。帯屋は地元・愛媛を舞台に選び、かけがえのない4年間を取り戻すべく奮闘する少女たちの姿を初々しい描線で表現。
2人の化学反応は『時をかける少女』を彷彿とさせる、甘酸っぱい青春SFを生み出してくれた。
さぁ、時間がもったいない。いますぐコミックスを手にとるべし。
ひとたびページをめくったら最後、時間を忘れて没入すること必至ですよ!
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。BSスカパー!オリジナル連続ドラマ『アカギ』の取材で津川雅彦さんにインタビューしました。津川さんが鷲巣役なら文句ナッシングでしょう。7月のオンエアがめっちゃ楽しみ。