『悪魔を憐れむ唄』第1巻
古泉智浩 KADOKAWA/エンターブレイン \680+税
1962年7月12日、ザ・ローリング・ストーンズがロンドンのマーキークラブで初めてライブを行った。
バンド名は当時のリーダー、ブライアン・ジョーンズがマディ・ウォーターズの「Rollin' Stone」から引用したものだ。
当時のメンバーはミック・ジャガー(V)、キース・リチャーズ(G)、ブライアン・ジョーンズ(G)、エルモ・ルイス(G)、イアン・スチュワート(P)、ディック・テイラー(B)、ミック・エイヴォリー(D)。ミックとキースは、まだ18歳の若さだった。
これを記念して7月12日は「ローリング・ストーンズ記念日」に制定されている。
ストーンズは初ライブの後、ビル・ワイマン(B)、チャーリー・ワッツ(D)があいついで加入。1963年6月7日にはデビューシングル「カム・オン」(チャック・ベリーのカバー)がリリースされる。以降の半世紀は明記するまでもないだろう。ミックもキースも70歳をとっくに超えたが、ストーンズはバリバリの現役ロックバンドだ。
本日の「きょうのマンガ」では、そんなストーンズの曲名からタイトルを引用した古泉智浩の『悪魔の憐れむ唄』を取り上げよう。
主人公はお笑いコンビ「マジボンバー」のツッコミ担当・渡辺。
客もまばらなさえないステージを終えて帰途についた彼は、総武線の車中で2人組の輩に財布をすられてしまう。
意を決して2人の後をつけ、彼らの入っていった一軒家に乗りこむ渡辺。それが悪夢の始まりだった。2人の正体はなんと悪魔で、謎の球体を体内に埋め込まれた渡辺は、彼らから舎弟のようにこき使われるハメに……。
最悪の状況に陥ったはずの渡辺であるが、自由すぎる悪魔たちの拘束は意外にゆるかったりして、いつも通りの地下芸人活動を続けている点がキモ。
著者の古泉自身もインディーズの大喜利イベントに何度も出演しており、とーご、ヨージ、虹岡誠、二階堂旅人、詩人歌人と植田マコトといった繋がりの深い芸人たちが実名で登場、ネタ自体も提供してもらうなど、濃厚なコラボが楽しめる。
元ネタとなった「悪魔を憐れむ歌」はストーンズが1968年にリリースしたアルバム「ベガーズ・バンケット」のオープニングナンバー。サンバ調のリズムと「ふっ、ふぅ~♪」という呪術的なコーラスで発表当時に物議を醸した怪曲だ。
悪魔という共通項以外、とくに接点はなく、歌詞の内容とストーリーも無関係だが、快調なリズムでアッパーに歌い上げつつも、おどろおどろしい雰囲気が全体を包む「悪魔を憐れむ歌」と同じようなグルーブが本作にも流れている。
うっかりこのページにたどり着いたストーンズファンのアナタ! これも何かの縁です。悪魔にだまされたと思って、ぜひコミックスを手にとってみてください。
どこに向かうかわからない不安定なミステリー×リアリティ満点の地下芸人描写という唯一無二の古泉ワールドに、ズブズブとハマることうけ合いですよ!
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。