『ちくま文庫 百日紅』上巻
杉浦日向子 筑摩書房 \680+税
約70万年前に火山活動を開始し、1万1千年前の大噴火で形成された現在の富士山(新富士火山)は、その後も断続的に噴火を繰り返してきた。
よく知られる三大噴火と言えば、800年の延暦の大噴火、864年の貞観大噴火、1707年の宝永大噴火であるが、その正確な日付が記録に残っている最古の噴火が、781(天応元)年7月31日に起こっている。
富士山の噴火を扱ったマンガといえばまずは望月峯太郎の『ドラゴンヘッド』が挙げられるのかもしれないが、よりさかのぼって近代マンガ成立以前の作家を思い起こすこともできるだろう。
そう、富士山をモチーフに描いた『富嶽三十六景』で知られると同時に、マンガ史をひもといていくなかで必ずぶつかる原初のマンガ『北斎漫画』(1814年)の著者・葛飾北斎その人である。
今回紹介したいのは、そんな葛飾北斎とその娘・お栄を主人公に描いた、杉浦日向子のマンガ『百日紅』だ。
料理はせず、食器を持っていないから包装のまま食べ、ゴミはそのまま放置、掃除ができないため部屋が汚れきるたびに引っ越し(合計93回)、会話は必要最低限で、一日中こたつから出ることなく絵を描きつづける。
そんな奇人として知られる北斎を、江戸風俗研究家でもある杉浦が、当時の庶民たちの生活や浮世絵師の世界にまで踏みこみ、みずみずしく描ききった傑作である。
なお、本短編集のなかから、怪異譚を軸に1本のアニメ映画として再構成した『百日紅~Miss HOKUSAI~』が、2015年5月から公開されている。作品はタイトルが示すとおり、お栄を主人公に、同居している父・北斎と、別居している目の見えない妹・小樽を混じえた江戸の日々を活写する。 作中には『北斎漫画』をはじめ、『富嶽三十六景』を模したシーンも登場する。まだ上映中の劇場もあるので、原作マンガとあわせ今日という日に観にいくのもいいだろう。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
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