日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『かふん昔ばなし』。
『まんが かふん昔ばなし』第1巻
かふん KADOKAWA ¥630+税
(2015年7月23日発売)
本作は、著者・かふんが自身のブログや「コミックウォーカー」でWEB連載したマンガに、加筆・修正を加えて書籍化したものである。
内容は、簡単にいえば思い出話をつづったエッセイマンガだ。
……というと、なにか古きよき時代を懐古する美談テイストをイメージされるかもしれない。
しかし本作が掘り起すのは、痛い! 怖い! しょうもない! と残念な方向にステータスを振りきり、純粋な喜劇として色づけした記憶の数々である。
ひどい偏食で、白米・牛乳・煮干し以外のものを食べれば吐きそうになる。
水泳の授業でビー玉集め競争をやれば水中のビー玉を誤飲して嘔吐する。
見たことのないヘビとの遭遇にあこがれ夜中に笛を吹いていたら親に外へ締め出され、夜闇におびえて嘔吐する。
犬に追われて逃げこんだ山からの帰り道、軽トラの荷台にのせてもらうと田舎の悪路にゆられてまた嘔吐。
って、よく吐くな!
いや、ゲロ以外でオチがつく話もあるんです。町工場の機械のフタに手を挟まれて指をつなぐ手術するはめになる話とかね。痛い痛い痛い。
今回、第1巻は幼年期編と小学生編に分かれており、小学生編に入ると“男の子あるある”の要素が濃くなってくる。
格ゲーで女性キャラを使って友だちに「お前エロいのか」と茶化されたり、お色気要素のあるマンガを買ったところを見られて「やっぱりエロか」とレッテルを貼られつつも読まずにはいられないといったエピソードは、「あるよねー、そういうの」と思わずしみじみしてしまう。
そのエロあつかいされるマンガというのが、成人向け作品などではなく『ラブひな』というあたりがまた……。
さらに、体験談のつなぎで、作者の母親にまつわる逸話が挟まれているのだが、これがえらく肝のすわった人物像を描写しておりおもしろい。
歴史ある土地へ嫁入りして以来たびたび家のなかと周辺で得体のしれない人影や、生き物なのかどうかもあやふやな“何か”に出くわすお母さん。
しかし彼女はどんな怪異も意に介さず怒鳴りつけて追い払ってしまう。
寺の住職から「鬼瓦となってあらゆる厄をはじき返す」と評されるそのツワモノぶりは笑いを通り越して尊敬の念すら抱かせる。
心も体もかよわい作者と、タフネス全開の母親とのコントラストでうまくメリハリがついた構成により、飽きることなく最初から最後まで一気に読みきれる作りになっている。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7