日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『働かないふたり』
『働かないふたり』第6巻
吉田覚 新潮社 ¥500+税
(2015年11月9日発売)
こいつら、本当に働かねぇ!
「エニート」(エリートのニート)の兄・守と、対人恐怖症で家事も手伝わないボンクラな妹・春子の兄妹は、いい年をしているが働かず、夜は2人でゲームをし、朝になってから眠る昼夜逆転生活。
新潮社のWEBマンガサイト「くらげバンチ」で連載中の『働かないふたり』の最新6巻が発売された。
もとがWEBマンガなので、1エピソードが1~2ページ程度という変則的なショートマンガ形式をとっているのが本作の特徴。4コマ漫画の単行本のようなテンポ感で、アホ兄姉の怠惰なニート生活が描かれていく。
第1巻発売からおよそ1年半、単行本6冊をかけていまだ働くそぶりさえ見せない、すがすがしいまでのニートっぷりである。
主要登場人物は固定(ゲストは変化)、舞台も固定(あまり家から出ない)なので、「日常系」ほのぼのマンガというよりはシチュエーション・コメディのノリに近い。
しかし、同じ状況下でさまざまな事件が起きるのがシチュエーション・コメディの醍醐味であるのに対し、『働かないふたり』の場合は“何も起きない”。
ニート2人が部屋にこもっているだけだからそれもそのはずだが、にもかかわらず「ヤマなしオチなし」の投げっぱなしにはなっておらず、毎エピソードにきちんと安定してオチがつくので、読み手側にある種の信頼感が生まれる。心置きなくニート兄妹のダメさ加減を楽しめるのだ。
さて6巻にもなると、準レギュラー的なキャラクターが増えてきた。
今巻では守の友人の彼女や、春子の学生時代の友人も登場。“外部”が2人を外に連れだし、ニート兄妹が引っかき回される……かと思いきや、周囲が兄妹のペースに飲みこまれていってしまう。
守のマイペースぶりはあいかわらず揺るがないし、春子は目を見開いて覚醒するシーンが1冊を通じてわずか3回のみ(パンの耳ラスクを食べたとき、スイカを食べたとき、格闘ゲームに勝利したとき)という徹底したボンヤリっぷり。
おそるべしニート兄妹のダメ人間力。紋切り型の「ニート大喜利」に堕していないのは、やはりこの兄妹のキャラクターによるところが大きいのではないだろうか。
なお、登場人物が増えたことで、感情移入の対象が増加した点は見逃せない。
友人やおとなりさんなど、それぞれの立場から兄妹を観察してみると、この2人の強靱なニート力にあらためて驚かされるはずだ。
親目線になると……、ああ、こいつら、本当に働かねぇ!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama