日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『サチのお寺ごはん』
『サチのお寺ごはん』第1巻
かねもりあやみ(著) 久住昌之(原案協力) 青江覚峰(監) 秋田書店 ¥619+税
(2015年11月16日発売)
ヒロインの臼井幸(うすい・さち)(27)は、何も期待せずあきらめている、諦念系女子。
幼いころ名前でいじめられた、恋愛ができない、など一般的な悩みもある。だが彼女、それどころじゃない。
せっかく早く仕事が終わったのに残業を頼まれ、のちに部署のみんなが飲み会をしていたのをネットで見て知ってしまう、しかもイジメじゃなくて単に忘れられていた、なんて有様。
それつらいよ! だれかに愚痴っていいと思うよ!?
こんなことの繰りかえしなので、彼女は「いっさい期待しない」ことを決意した。
あきらめて暮らせば、怒りも悲しみも生じない。
このマンガは、タイトルのとおりお寺の食事が題材。
食マンガは、食べることで心を満たすことがテーマになる。
たとえば『高杉さんちのお弁当』は、コミュニケーションが苦手な2人の会話のきっかけに食があった。
『忘却のサチコ』は、悲しみを忘れるために食の幸せで視野を広げている。
『お寺ごはん』では、ゆっくり考える時間を作るきっかけとして「食」がある。
住職の源導は、七輪でそら豆を焼く。幸はそれを見る。
そら豆は枝豆にならない。えんどう豆にも、大豆にもならない。そら豆のままでいるから、おいしい。
人生も同じ。自分は自分。まわりの人と同様になる必要はない。
じっくりゆっくり、そら豆を焼く。時間をかけて、ただ焼けるのを待つ。
出てくるのは精進料理。ハデではなく、時間をかけて作るものが多い。
のんびりと料理を作る楽しさを覚えた彼女の顔には、少しだけ笑顔がともる。
焦らず、自分のペースで食をつくる。
ほかのものに惑わされない自分の時間をつくれるようになると、人生の視点はどんどんいい方向に変わっていく。
にしてもヒロインの名前「臼井幸」って、あんまりにもひどい。
しかし、薄味な料理のような幸せ、と考えてみるのもいいんじゃないですかね。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」