日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ヘルボーイ:捻じくれた男』
『ヘルボーイ:捻じくれた男』
マイク・ミニョーラ(作) リチャード・コーベン、ダンカン・フィグレド、ジョシュア・ダイサート、
ジェイソン・ショーン・アレクサンダー(画) 秋友克也(訳) ヴィレッジブックス ¥2,900+税
(2015年11月30日発売)
かつて、アメコミの版元と言えばDCコミックスとマーベル・コミックの2大出版社が有名だったが、その2社に次ぐ規模を持つのがアメコミ出版社にあたるのがダークホースコミックスである。
ダークホースコミックスは、『スター・ウォーズ』(2014年で契約終了)のスピンオフコミックスをはじめ、『エイリアンVSプレデター』、『ターミネーター』、『ロボコップ』などの映画キャラクターのコミカライズを行うことで力をつけてきた出版社だが、その看板タイトルとなるのはオリジナル作品である『ヘルボーイ』シリーズだ。
『ヘルボーイ』は、第二次大戦中、ナチス・ドイツに協力するロシアの怪僧・ラスプーチンによって地獄から呼び出された悪魔の子ども・ヘルボーイを主人公とした物語。
ヘルボーイは、超常現象を研究するブルッテンホルム教授によって保護され、その後「超常現象捜査局(B.P.R.D)」のエージェントとして、さまざまな超常現象に関わる事件を調査、解決するゴシックホラーアクションとして描かれている。
コントラストの強い独特のアートで高い評価を得るマイク・ミニョーラがライターとアーティストの両方を担当。世界各国のオカルト的な要素を取り入れた内容と特徴的なアートが融合することで、高い評価を得てきた作品だ。
そんな『ヘルボーイ』シリーズは、大きくわけると2つのストーリーラインが存在している。ひとつは、書籍の発行時期と同じ時代を舞台としたメインストーリーを描く長編シリーズ。
もうひとつは、過去のヘルボーイの活躍を描く短編シリーズだ。今回紹介する『ヘルボーイ:捻くれた男』は、後者にあたり、『ヘルボーイ:縛られた棺』、『ヘルボーイ:プラハの吸血鬼』に続く、短編シリーズの3冊目の作品だ。
本作は、アメリカのアパラチア山脈を舞台とした表題作を含め、4本の短編で構成されている。
4作ともライターはマイク・ミニョーラが担当し、アーティストは異なっており、ストーリーに合わせた独特のテイストを味わうことができる。
なかでも注目したいのが、原作者であるマイク・ミニョーラがライターとアートを担当した1本。
ミニョーラは、『ヘルボーイ』の長編の途中からアートはダンカン・フィグレドにまかせ、ライターとしてストーリーの構成に従事してきた。フィグレドのアートはミニョーラのテイストをしっかり継承し作品にマッチしていたが、ファンとしてはやはりミニョーラ本人によるアートが見たかったのも事実だ。
そんな状況のなか、今回の短編のうちのひとつでは、じつに久しぶりにライターとアートの両方を担当。
ほかのアーティストの個性が光る短編とあわせて、ミニョーラによって描かれたオリジナルの作風を味わうこともできるのはまさにサプライズと言えるだろう。
『ヘルボーイ』は、ギレルモ・デル・トロ監督、ロン・パールマン主演による実写映画化もされているため知名度も高い作品であり、アーティスト性の強いアメコミとして高い評価を受けているので、その作品の魅力に触れたいと思っている人も多いかと思われる。
そういう意味で『ヘルボーイ』の短編シリーズは、さまざまな時代を背景とした世界各地の怪事を描きつつも、長編のような物語の連動は少ないので、『ヘルボーイ』の原作の入門編には適していると言えるので、まずは最新刊となる本作を手にしてみてはいかがだろうか?
<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。