365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
1月2日は『さまよえるオランダ人』の初演日。本日読むべきマンガは……。
「トロイエ」(『祈りと署名』収録)
森泉岳土 KADOKAWA ¥680+税
1843年の今日1月2日、リヒャルト・ワーグナーの歌劇『さまよえるオランダ人』が、ワーグナー自身の指揮によってドレスデンで初演された。
ワーグナーはたくさんの歌劇(楽劇)を作曲しているが、この作品は30歳手前の若い頃のもので、比較的わかりやすい筋立てだ。
呪われ、死ぬこともできずに永遠に海をさまよい続けるオランダ人を、娘・ゼンタが愛で救うという、シンプルだが力強い救済の物語である。
今日ご紹介する「トロイエ」は、この『さまよえるオランダ人』のストーリーを下敷きにして描かれている。
立派なお屋敷に務めることになった女中のキャロル。
「さまよえるオランダ人」を歌いながら仕事に励む彼女のもとに、突然兄がやってきた。
「足りなく」なってしまっている兄に、キャロルは自分を捧げ続けて――。
その全編がシルエットで描かれた、非常にイラストレーション的な作品だ。
だが表情が見えないゆえに、読者に強く訴える何かがある。
タイトルになっている「トロイエ」とは、誠実を意味するとのこと。
兄妹の間にあるのは、オランダ人とゼンタのような純粋な愛ではなく、誠実さということなのだろうか。
ただ、その答えは読者がそれぞれに出せばよいのだろうし、それを感じとれればあえて言葉にする必要もないと思わせる奥深い作品だ。
この「トロイエ」は『祈りと署名』という短編集に含まれているが、どの作品についても絵画を想起させる独特のセンスと、ほかでは見ることのできない世界観によって構築されている。
帯によれば「プロの間からも『どうやって描いているのか』と疑問の声が続出し」たという、まったくオリジナルな画風は一見の価値ありだ(著者の解説によれば、水と墨、爪楊枝と割り箸で描いているとのこと)。
オペラの序曲には、そのオペラすべてのエッセンスが詰まっているという。
『さまよえるオランダ人』もそのとおりで、オランダ人のテーマや荒れ狂う嵐の海、水夫たちのかけ声、そして救済のテーマと、非常にわかりやすく作られている。
序曲はだいたい10分前後。
聞きつつ短編の「トロイエ」をじっくり読んで、作品の余韻に浸るにもちょうどいい時間ではないかと思うが、いかがだろうか。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」