『夜よる傍に』
森泉岳土 KADOKAWA/エンターブレイン \778
(2014年6月25日発売)
手触りのよいカバー。ページを開くと、香ってくる独特の匂い。多くのマンガと使っている紙が違うから? それともインクが? わからないのだけれど、遠因としては「画法」に関係がある(はず……)。
このマンガは、すべて水で描いた線に墨を落としてゆくという、恐ろしく時間のかかる、独特の手法で描かれているのだ。
眠ることのできなくなったカメラマンのサトルが深夜の散歩中、夜しか目が見えない少女・美琴に出逢うところから、物語は始まる。
美琴の視覚障害の原因となった絵本は、いかに朝を迎えるかについて描かれた『夜をさがして』。夜に囚われた2人、サトルと美琴は、絵本を、新しい夜を、見つけられるのか――。
デビュー作『祈りと署名』につづく著者12冊目の単行本であり、初の長編作。
より磨かれた独特の画法は、夜を描くことにぴたりとはまり、幻想と現実の合間に漂う、美しいマンガとなっている。
眠れぬ夜に、そっと読みたい。
<文・かとうちあき>
人生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。野宿が好きです。だらだらしながらマンガを読むのも好きです。