複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「成人式、例年どおりに荒れる」について。
『別冊家庭画報 振袖大好き! 2016-2017』
世界文化社 ¥1,100+税
(2015年10月17日発売)
1月10日、全国各地の自治体で今年も成人式が開催された。
新成人のみなさん、おめでとうございます。
この時期、“荒れる成人式”がメディアを賑わせるのは、もはや季節の風物詩のようなものだ。 ウルトラ怪獣に出てこないんですかね、アレル星人って。
こうした“荒れる”手あいは、どの世代にも一定数はいるもの。
そんなヤカラを「ガキだなぁ」と哀れむことで、新成人たちは自分が大人になったと自覚します。それが21世紀日本型のイニシエーション(通過儀礼)なのである。
大半の新成人は、ちゃんとしてますよ。
若者が群れるとウザくなるのは1万8千年前(定住開始)から一緒です。
といったところで今回は、成人式の悲喜こもごもをマンガで回顧していきたい。
『聲の形』第7巻
大今良時 講談社 ¥429+税
(2014年12月17日発売)
一般的に成人式は、同窓会とセットになっている。
式典のあとは別会場に移動して酒宴になるが、小学生時代の同級生と酒を飲むのも、なかなか不思議な感じがする。
旧友との再会は、一瞬にして当時の感覚を呼び戻してくれるが、あまりいい学生時代を過ごしていなかった場合は“黒歴史”がフラッシュバックしてくるので、気が重かったり……。
そのあたりの空気感は、大今良時『聲の形』第7巻に再現されている。
本作はいじめや聴覚障がいをテーマにしつつも、高いエンターテンメント性を発揮し、『このマンガがすごい! 2015』オトコ編ランキングでは見事1位に輝いた。
本編ラストのエピローグでは成人式の様子が描かれる。「過去の自分」と向きあう象徴的なシーンとして同窓会が扱われているのが印象深い。
『孤高の人』第11巻
坂本眞一(著) 新田次郎(案) 集英社 ¥514+税
(2010年6月18日発売)
“荒れる成人式”を描いたのは『孤高の人』(坂本眞一・著 新田次郎・案)だ。
心を閉ざした少年・森文太郎がフリークライミングを通じて成長していく陽性の更生型スポーツマンガ……と思わせておいて、とある事件を契機にストーリーは一転。寡黙でクールだった主人公は、登山以外は何もできない社会不適合者になってしまう。
自然と文化、聖と俗。
そのコントラストがまざまざと見せつけられ、互いの美醜を浮き彫りにしつつ、明るい学園ドラマのようなテンションだった冒頭部分とはまるで別作品であるかのように、作品は恐るべきテンションで内省性を研ぎ澄ませる。
そして孤独だった主人公は、孤高の存在へと上りつめていく。
ヒロインは風俗嬢に転落するし、ライバルはFXで金を溶かし、主人公の金を持ち逃げする始末。
渡仏してクライミングのプロになる夢は叶わず、地元の成人式で「バカ殿みたいな派手な紋付き着て これみよがしに酒あおって乱闘騒ぎ起こしてた」(コミックス11巻)。
“学生時代は輝いていた”ロードサイドのB層マイルドヤンキーが、なんの努力もせずに自己顕示欲を満たそうと思ったら、成人式で目立つことくらいしか思いつかない。
そんな絶望の象徴として“荒れる成人式”が描かれているのは興味深い。
『ハチミツとクローバー』第3巻
羽海野チカ 集英社 ¥400+税
(2003年1月17日発売)
女子にとって成人式は「振り袖を着る」貴重な機会でもある。
だから男子に比べると、ちょっと思いいれの度あいが違ったりするわけだ。
羽海野チカ『ハチミツとクローバー』では、はぐちゃんが「成人式の時 長野で撮ってもらったの」といって振り袖姿の写真を見せてくる(3巻chapter.19)シーンがある。
女子にとっては思いっきり着飾ることができる、憧れのイベントだったりするわけだ。
……もっとも、はぐちゃんの場合は七五三にしか見えないわけだが。
ちなみに、はぐちゃんの田舎は長野県安曇野市。そのお隣の松本市は、2015年の成人式のパンフレットに、同市出身の高野苺による『orange』のイラストを起用した。作中登場人物たちが紋付きや晴れ着で描かれており、この作品の性質を知っていると、彼らが成人式を迎えていることに感慨もひとしおなはず。
『姫ギャルパラダイス』第1巻
和央明 小学館 ¥400+税
(2009年11月27日発売)
ハレの場で着飾りたい女子の欲求は、近年は髪型にも反映される。
いわゆる「盛り」だ。
どういう経緯でそうなったのか皆目見当がつかないが、キャバ嬢風に髪を盛る女子が急増。まさしく「どうしてそうなった」状態である。
そして髪型の盛りといえば、和央明『姫ギャルパラダイス』は必見だ。
ジミでダサイ姫子は、超絶美形の姫ギャル・美神とちおとめ(男)によってメイクやヘアアレンジをされて、立派な姫ギャルに大変身!
なにを言っているかよくわからない読者もいるだろうが、そういう『メイキャッパー』(板垣恵介)的なノリのギャル系マンガである。
毎回の見せ場となっているのが、盛り盛りなヘアアレンジだ。しかもそのネーミングが毎回ブッ飛んでいる。
「常夏プリンセス!!パイナップル盛り トロピカル果汁シャワー」とか「超ド級メガ盛り ちゃお・キラキラトルネード!!!」とか「お耳がドーナツ チョコねずみプリンセス!!」とか、言葉の意味はよくわからんがとにかくすごい自信だ。
髪型のなかに雑誌の「ちゃお」(小学館)を盛ったり、カニを盛ったり、ドーナツを盛ったり、とにかくなんでもアリな世界。
きっとアナタ好みの盛りヘアが見つかるハズッ!
『キン肉マン』第3巻
ゆでたまご 集英社 ¥400+税
(2013年6月発売)
そして最強の盛りヘアといえば、もちろん『キン肉マン』(ゆでたまご)のカレクックだ。頭の上にカレーを乗せている、究極のアゲ盛りである。
え? 盛りの名称?
そんなもん「大盛り」に決まっているだろうがッ!!
来年成人を迎える皆さん、ぜひカレクックの大盛りカレーにチャレンジを!
おせちもいいけどカレーもねッ!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama