日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』
『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』第6巻
おおひなたごう KADOKAWA ¥620+税
(2015年12月25日発売)
「メシの食べ方」をテーマにしたギャグマンガ『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』。
ハードボイルドな劇画調キャラが、人によっては気にもとめないような「他人の食べ方」にいちいち大仰に反応し、カルチャーショックを受ける。
その際の詳細かつ過剰な描写(心の声による実況中継)のウザおもしろさは、『かっこいいスキヤキ』、『食の軍師』の泉昌之ワールドをほうふつとさせつつ、その差異をめぐるアレコレを通じて「他人(のルールや価値観)」をどこまで受けいれられるか? といった人間の根源的テーマに強引に肉迫してゆくのが、じつにウザおもしろい。
食べ方が原因で恋人と別れるとか、仲間と決別するとか、アホか…と思ってしまいそうだが、男女の別れの理由なんて案外、他人が聞いたらあきれるほどささいなことだったりするのが現実なわけで。
じつはゴダール映画ばりのディスコミュニケーションを描いた、アホらしくも深いギャグマンガなのだ。
第6巻では二郎が仕事(ゆるキャラのスーツアクター!)を辞めて、役者に挑戦するというストーリー的にも大きな動きがあり。
二郎ははたして他人(の食べ方)を受け入れる大人になれるのか? 佳境に迫りつつある。
ネタ的にも「カップラーメンのフタ 全部取る?」問題は、意外と盲点だけに、それぞれ当人にとっては当たり前だか他人にとってはナゾの細かなこだわりがあっておもしろい。
世に流通する「フタを押さえるための便利グッズ」をさして、「高々カップ麺のフタを押さえるためにこれ程までに工夫を凝らし、ましては商売にまでしてしまう民族がいるでしょうか?」と読者に問いかける著者コラムには、そうだよな~と目からウロコ。
考えてみれば『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』問題が問題になることじたい、日本的であり、人種のるつぼのアメリカなんかじゃありえないのかも。
こういうみみっちいネタで楽しめる日本人に生まれてよかった!と小さな幸せを噛みしめずにいられません。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69