人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、雲田はるこ先生!
時は昭和、舞台は東京の下町。昭和最後の大名人・有楽亭八雲は弟子入りを一切認めぬ孤高の天才落語家。そんな八雲の落語に心酔した元チンピラの青年・与太郎は、押しかけ弟子入り志願をする。気まぐれか道楽半分か、与太郎の弟子入りを八雲は認めたが――。
落語の世界に生きる落語家たちの光と闇を、美麗なタッチと繊細な心理描写で生き生きと描き出す雲田はるこ先生の『昭和元禄落語心中』。
本格落語家マンガとして注目を集め、様々な賞を受賞し、落語ファンならずとも幅広い世代に支持される同作。ファン待望のテレビアニメの放送スタートを記念し、作者である雲田先生にお話をおうかがいしました。
アニメ版との相違と アニメによる影響
――いきなりですが、今、テレビアニメが絶賛放映中ですので、アニメ絡みのお話からお聞きします。アニメは「与太郎放浪編」を再構成していました。
雲田 もともとが特装版(7巻と8巻)に同梱されるDVD上下巻用に作られたアニメを、さらに再編集してダイジェスト版にしたのがアニメ版の第1話です。だから、原作とは時系列が入れ替わっているところがあります。
――原作の時系列はカバー裏の「粗筋双六」にありますね。
雲田 そうです。けっこう気づいてない読者さんも多いのではないかしら。
――2巻と3巻だけカバーの裏に、ストーリーの時系列がわかる双六が載っているんですよね。でも、どうして2巻と3巻だけなんですか?
雲田 いやぁ、忙しくなっちゃって……(笑)。
――なるほど(笑)。
雲田 はじめ掲載誌の「ITAN」(講談社)[注1]は季刊誌で年4回の発行だったんです。だから時間的な余裕もあって、いろいろできたんですね。それが隔月刊になったので、なかなか時間が作れなくなってしまったんです。
――それでも巻末のおまけは落語入門として充実してますよ。
雲田 あと、年4回発行なので春夏秋冬で季節感を出そうと思って、作中で出す演目も季節に沿ったものを選んでました。季節感を感じることも、落語の醍醐味ですし。
――そのあたり、アニメ版との違いを比べてみるのも楽しいですよね。
雲田 そうですね、ぜひ。
――アニメと同時進行だと、作品に影響が出たりしました?
雲田 しました、しました。私、影響受けやすいんですよ。
――たとえば?
雲田 マンガを描いている時は、みよ吉さんの行動が読めなかったんです。
――あー。
雲田 ずーっと「この人はどういう人なんだろう?」って思いながら描いてたんですよ、「女の人の考えることは難しいなぁ」って(笑)。
――アニメだと林原めぐみさん[注2]が声を担当しました。
雲田 林原さんの演技とかエンディングテーマ曲[注3]を聞いて「この人、こういう人だったんだ」って、ちょっとわかったんです。
――おお、アニメからの逆輸入で。
雲田 そうなんです。だからじつはその影響で、みよ吉さんのエピソードがマンガ連載の方で変わってきたりしました。
――そういうこともあるんですね?
雲田 私の場合ですが、おおいにあります。与太郎が最初に「初天神」[注4]を演るシーンがあるじゃないですか。
――八雲師匠の歌舞伎座での独演会で、開口一番に上がるところですね(2巻其の五)。
雲田 あのシーン、落語がボロボロで与太郎がしくじるところなんです。だからアニメでは、声優の関智一さん[注5]がとても上手に「ヘタクソに」演技してくれたんですよ。「あいつ、フラだけで喋ってるね」っていうまんまの落語を。
――ヘタにやる演技、ってのもすごいですね。
雲田 それを見ていたら「ちゃんと成長したところも描いてあげたいな」と思って、それでマンガ連載の方でも与太チャンにもう1回「初天神」を演らせたんです(8巻其の九)。
――それが席亭さんの「前座の頃とは比べモンならねぇな」ってほめ言葉につながっているんですね。
雲田 そうです、上手になったことを作中で示したかったんです。
- 注1 「ITAN」 2010年に創刊した講談社の女性向け季刊アンソロジーコミック。キャッチフレーズは「想像系新雑誌」。連載作品に『昭和元禄落語心中』のほか『フラウ・ファウスト』(ヤマザキコレ)『テンペスト』(阿仁谷ユイジ)などがある。
- 注2 林原めぐみさん 日本を代表する人気女性声優として有名だが歌手、ナレーター、作詞家、エッセイストとしても活躍するマルチタレント。愛称は「めぐさん」「めぐ姉」「閣下」など。『らんま1/2』の女らんま、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『名探偵コナン』の灰原哀など数多くの主役級キャラクターの声を務める。“声優アーティスト”というジャンルの第一人者でもある。
- 注3 エンディングテーマ曲 アニメ版のエンディング「かは、たれどき」(作曲・編曲:澁江夏奈)のこと。ちなみにオープニングテーマ曲は「薄ら氷心中」(作詞・作曲・編曲:椎名林檎/歌:林原めぐみ)
- 注4 「初天神」 古典落語の演目のひとつで、毎年1月25日に天満宮で行われるお祭りに出かけた父と息子のやりとりを描く。そのため正月の興行にかけられることも多い。
- 注5 関智一さん 声優、舞台俳優、ナレーター、歌手など幅広く活躍。愛称は「関智」「チイチ」。少年役から青年役までこなし、特にヒーロー役を数多く担当している。代表的キャラクターに、『のだめカンタービレ』の千秋真一、『ドラえもん』の骨川スネ夫(2代目)など。ちなみに、業界一の特撮好き、としても有名。落語家・立川志ら乃の客分の弟子でもある。