人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、池辺葵先生!
オリンピック開催を控えた東京で、女性たちが理想の家を探しもとめる群像劇『プリンセスメゾン』。 『このマンガがすごい!2016』では第10位にランクインし、2月12日には最新第2巻が発売され、さらに注目をあつめている。
このマンガの企画のきっかけや、言葉づかい・セリフなどへのこだわりなどをうかがったインタビュー第1弾に続き、今回は池辺先生の絵のルーツや、先生自身の「理想の家」について話をうかがった。
マンガを描くうえで、一番影響を受けたのは松本大洋先生だった
——先生のホッとできる温かな、だけどどこか切ない情感のある絵が大好きなのですが、作画のルーツはどこにあるのでしょうか? 影響を受けた方などいらしたら教えてください。
池辺 自分で特に強く影響を受けていると感じるのは、岩館真理子さん[注1]、遠藤淑子さん[注2]、松本大洋さん[注3]、西田東さん[注4]です。
——おぉ! もしよろしければ、各先生方のどういったところに影響を受けたのか教えていただけますか?
池辺 岩館真理子さんは視点がどこか冷めていて、読者の感情を無視しているような、「いつでもこのマンガにがっかりしてくれてよくってよ」的な気ままさがあって……。でも、それが少女特有の繊細で残酷な空気を漂わせていて、とても美しいと思いました。。それに、ちょこちょこなんだかふっと笑えるんです。ちょうどいい感じに息抜きさせてくれる。
——なるほど。では、遠藤淑子先生は? 遠藤先生といえば『プラネット』などがありますよね。
池辺 遠藤淑子さんのマンガには、諦観とか寛容とか潔さみたいなものが詰まっている気がします。諦観してるけど、ひねてなくてまっすぐなんです。セリフまわしが絶妙で小気味いい。
——たしかに。池辺先生がセリフのリズムなど大切にされている点からしても、惹かれるところが大きいということでしょうか。
池辺 漫才を見てるみたい。どの人も冷めているのにストーリーはくるくる動いていて。思考が底に沈む前にすくいあげてくれるようなマンガです。
——それでは、松本大洋先生は? 唯一の男性作家ですよね。気になります。
池辺 松本大洋さんは、漫画家を目指しはじめた時に読んでいて、マンガを描くにあたっては一番影響を受けたと思います。内容の深さももちろんですが、構図やコマの流れに惹かれました。静かながらドラマティックで、どうしてこんなマンガが描けるのかと思って。線も白黒のバランスもとても美しかったし、画面から音が聞こえてくるような気がしたのも初めての体験でした。それで、投稿時は意味もなく、俯瞰や煽りを駆使していました。
——池辺先生にとって松本先生の作品は影響力が強かったんですね。では、西田東先生はいかがでしょうか?
池辺 西田東さんのマンガは盲目的に愛しています。男の人のだらしなさとか、純粋さとか、残酷さとか、不実さとかが多面的に描かれていて、どうしようもない人なのに、それがすごく愛おしく感じられるのが、なんとも言えない魅力です。
——どこか足りないというか。
池辺 どの男性も欠けている感じがするのですが、それこそが魅力なんだと教えてくれるマンガです。作中でよく、男の人が若干寄り目になったりするのですが、そうなった時、すごく怖いなと感じるんです。相手が何を考えているのかわからなくなる瞬間。なんの説明もなくても、「いま、この人一瞬で冷めた……」って感じる。そういう表情の描き方も勉強になりました。あとがきもいつも衝撃的なんです。西田さんのお笑いのセンスはもう別次元で……。ご本人は笑わせようとも思ってないんじゃないかな……。
——西田先生への愛がすごいですね。
池辺 もっといろいろありますが……このあたりでやめておきます。
繊細な絵から見える、先生の情熱やこだわり
——引き続き、絵についてうかがいたいと思います。『プリンセスメゾン』のなかには東京タワーとクレーン車が見える橋の風景や、高層タワーから見る光のはしごなど、印象的な風景がたくさん登場します。お気に入りのシーンなどあれば教えてください。
池辺 2巻16話の見開きです。お気に入りというよりは、自分の画力や体力の限界を知ったという意味で心に残っています。この時、描きたいものや浮かんだ風景が全部表現できるわけじゃないんだと知りました。
——16話はどこか寓話的な回ですよね。なかでもあの見開きは私も印象に残っています。現実ラインとしては、5話でひとり暮らしのマンガ家さんが気持ちよさそうにテラスでお茶を飲むシーンにグッときました。先生がご自身のおうちのなかで気に入っている場所はありますか?
池辺 家ではマンガを描くばかりなので特にありませんが、煮詰まるとだいたいベッドに寝ころがっています。
——カバー表紙や作中に登場する家具や小物などのディティールもかわいらしいです。「家」のみならず、これらも個性を表わすモチーフだと思いますが、インテリアを描くにあたってのこだわりはありますか?
池辺 ありがとうございます。絵に関しては、すてきに描けなくて情けなく思います……。
——そんな。とてもステキだと思います。作中のインテリアひとつとっても、こだわりのようなものが見えます、とても。先生ご自身のインテリアに対するこだわりはありますか?
池辺 引っ越しが多いので、あまりものを持たないように気を付けているのですが、先日、着物の帯をテーブルランナーにあつらえ直したものに一目惚れして買ってしまいました。結局、それをひくテーブルがなくて折りたたんでしまっていますが……。無用のものを買ってしまうことがたまにありますね。刺繍とか織物とか瀬戸物とか、わかりやすく人の手の技を感じる物が好きです。金沢に行った時に、手毬を買いそうになって危ないところでした。
——ふふふ。「手毬」というのが、なんだか先生らしさを感じます。
池辺 そうでしょうか。でもその時見た手毬は、本当にとてもすてきな手毬でした。
- 注1 岩館真理子 漫画家。1973年に「週刊マーガレット」(集英社)に「落第します」でデビュー。1992年、『うちのママが言うことには』で、第16回講談社漫画賞を受賞。大人の女性の恋愛からファンタジー作品など幅広く描き、多くのファンから支持を受けている。
- 注2 遠藤淑子 漫画家。1985年、白泉社「別冊花とゆめ」で「慶長スラップスティック」でデビュー。『プラネット』をはじめ、『マダムとミスター』『ヘヴン』など、コメディ色の強い作品からシリアスなストーリーも手がけている。
- 注3 松本大洋 漫画家。1987年デビュー。代表作に『花男』『鉄コン筋クリート』『ピンポン』など。作品はたびたび映像化され、とくに『ピンポン』は2002年に実写映画化、2014年に『ピンポン THE ANIMATION』というタイトルで放送され、再び注目を集めた。
- 注4 西田東 漫画家。BL作品を中心に活動中。絵柄は一部で“ヘタウマ”系と呼ばれているが、ストーリー展開やキャラクター造形、ギャグ要素など定評がある。サラリーマンものが多い。