日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『愛蔵版 萩岩睦美短編集 魔法の砂糖菓子』
『愛蔵版 萩岩睦美短編集 魔法の砂糖菓子』
萩岩睦美 平凡社 ¥1,200+税
(2016年2月10日発売)
萩岩睦美といえば、小中学生向き少女マンガ雑誌「りぼん」における、80年代の代表選手。
本田恵子、池野恋らと並び、高い人気を博した漫画家だ。
最大の魅力はなんといっても愛らしい絵柄で、彼女が好んで描くファンタジーの世界はたくさんの少女たちを魅了した。
代表作『銀曜日のおとぎばなし』では小人族のポーの物語が描かれたが、この短編集も、異界の王女や妖精たちなど、不思議な世界に住む存在たちが大活躍する。
まずは、表題作である「魔法の砂糖菓子」の簡単なストーリーをご紹介しよう。
主人公は、みなしごのマリー。
20歳になり、領主の息子のもとに嫁ぐことになったが、その顔色はさえない。
望まない結婚をする彼女の脳裏に、幼い日の記憶がよみがえる。
幼い頃から肺を病んでいるマリー。両親を事故で亡くし、引き取られた親戚の家でこき使われる毎日を送っていた。
ある日逃げ出した飼い猫のラリーを追っていくと、知らない家にたどりつく。
そこにいた美しい青年にもらった魔法の砂糖菓子でマリーの咳が止まり、気づけばかわいいドレスを着せられている。
そして彼らは幻想の世界へと旅立つのだが……。
この話はなんといってもラストの1枚が印象的。
収録されている描き下ろしのコミックエッセイにも、著者みずから「小学生の読者を置き去りにしたかのようなあのラストシーン」という表記をしているくらいだ。
しかし、だからこそ評価が高かったようで、本作が読み切り作品のなかでは圧倒的に人気とのこと。
実際ラストを目にすると、「え?」と思うと同時に、胸のなかに何とも言えない不思議な感慨がわき上がってくるという独特な作品なのだ。
収録されているのは表題作のほか「不思議の国の金魚姫」「くじら・舞踏会」、そして「落ちこぼれ天使」シリーズが3本の計6本。
いずれも、書き文字までもが特徴的な、萩岩ワールドのキュートな作品たちだ。
筆者も「りぼん」愛読者だったのだが、思い返せば萩岩作品こそが、一番身近なファンタジーの世界だったように感じる。
子ども向けの名作文庫を紐解くよりも、もっともっと近い場所。
毎月読んでいるマンガ雑誌のなかにある、ワクワクする世界。
そこにある、ヨーロッパの絵本めいた、透明かつ優しい色使い。
どう真似してもうまく描けなくていつも憧れだった、ふんわりしたドレスやリボン、たくさんの花たち。
今それが愛蔵版として、カラーページを完全復活させたうえに、コミックス未収録イラストも満載でよみがえるというのは非常に喜ばしいかぎりだ。
あなたもぜひ、この優しい空気を、美しいペンタッチを、見ているだけで幸せになるカラーを堪能してください。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」